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結局あれから、マクギリスに助けられ石動と3回ほど飲んだりご飯に行ったりした。会う度に距離が縮んでいるような気がして嬉しくて、3回目に飲んだときなんかはついにふたりきりだったため、調子に乗って飲みすぎてしまったらしく、ふらふらで歩けなくなってしまった。視界が歪み、立っていることすら不可能なほどふらふらした。幸い吐き気はなかったが、無事に家までたどり着けるとは思えず、介抱してもらう羽目になった。

「……ごめんなさい、飲みすぎちゃって」

「お気になさらず」

歩こうと思ったが無理だと判断されたらしく、不思議なことに石動の背中に乗っている。俗に言うおんぶというやつだ。恥ずかしくて肩を掴むのが精いっぱいの私を知ってか知らずか、落ちないように、と首に腕を回してくださいと彼は言う。
目の前に彼のふわふわな髪。長めに揃えられているそれからはシャンプーだろうか、爽やかな甘い匂いがする。

「今日はじっくりとお話出来て嬉しかったです……」

素直にくちから零れて、それを聞いた石動は心なしか笑ってくれたように思う。

「……あなたといると時間を忘れてしまう」

「えっ、?」

唐突に彼はそんなことを言うもんだから、私の頬は熱くなっていく。しかしそれもにわかに涼しい夜の風が冷やしてくれる。

「話していて、とても素敵だと」

石動は少しだけ顔を動かして私の方を向く。
そんなふうに言われては、私のこの、胸の奥にある想いが溢れてしまいそう。シラフではないこの状況で、感情が抑えきれるはずがなかった。

「……石動、いするぎ、」

「……はい、何でしょうか」

「どうして私にこんなに優しくしてくれるんですか……?」

「わかりません、私自身も不思議です」

軽く笑い声をあげる彼を初めて見た。
そんな彼がとても好きで、どうしようもなく好きで、衝動的に、半分ヤケクソで、彼の首に腕を回してくっついた。最初に彼自身がそうしていいと言ってくれたんだから。

石動が一瞬息を呑むのがわかって、もう少しだけ距離を縮めた。もう本当に、おんぶされていながらも後ろから抱きついているような、そんな感覚だ。
この夜道、人通りは全くと言っていいほどないから、だから出来てしまったのだろうとも思う。それにしても家に続く道はこんなに長かっただろうか。

「ルネ」

低く、優しい声色。そんな声で私の名前を呼ぶのはずるい。

「……今夜のことは、准将には内緒ですよ」

「はい……、」

少し間を置いて返事をした頃、私の住むマンションのエントランスへと辿り着いた。だいぶ酔いも覚めたので、と彼の背中から降ろしてもらう瞬間に少しバランスを崩して彼の胸に倒れ込んだ。さすがと思えるほど俊敏に反応した石動が上手に抱き留めてくれて、地面に尻餅をつくのは避けられた。

「ごめんなさい!」

「問題ないです」

「……なんか今日は謝ることばかりですね」

この数時間で彼にどれだけ迷惑を掛けてしまっただろうか。考えるだけで申し訳なさがどうしようもなくなり、目頭が少しだけ熱くなる。
そんな私を見て彼は言う。

「こんな私とふたりで飲みに行ってくださり、色々な話が出来て嬉しいとまで言ってくださったのに、そんなことを言う必要はないと思いますが」

「……でも、」

「とても楽しかった、それだけで十分です」

そんな優しい言葉をかけられたら泣いてしまう。
必死に堪えてお礼を言った。ありがとう、とひと言だけ。それ以上は言葉が出なかった。
頷いてくれた彼の表情はとても柔らかくて温かくて忘れられそうもない。

今夜は月が綺麗だ。
ふと空を見上げると満月だった。どうりで空が明るいわけだ。

「部屋まで送ります」

そう言って石動は私の顔を覗き込む。そんなにしてくれなくてもいいのに、とも思ったが、少しでも同じ時を過ごせるならそれに越した事はなかった。





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a love potion