小説2

2016/08/14 - 無表情君の妄想記録1

1話目
「本当に無表情だよね〜兄貴って」

1つ年下の弟が俺を見ながら呟く。
確かに俺の表情筋は死んでいる。
赤ちゃんから今までの俺の成長の記録として残されている写真や映像でも、俺の笑顔は残されていない。
自分自身でも笑顔を浮かべた記憶すらない。

「兄貴の表情が変化する時ってどんな瞬間だろうね」
「さあな。俺にも分からない事だな」
「兄貴自身でも分からないもんなんだ」
「物心ついた頃から現在まで無表情が俺のデフォルトだからな」
「そっか」
「そうだ」

俺の返答に納得した弟は、学校に向かう準備を再開した。
部活の朝練がある弟の登校は早い。
それに比べて部活をしていない俺は今から朝食である。
焼けたトーストにバターを塗っていると、準備の整った弟がリビングの扉を開けた。

「いってきます!兄貴も今日は朝会あるから早く出なよ!」
「分かっている。お前も気をつけて学校に行けよ」

リビングから出て行く弟を眺めながらパンを囓る。
兄弟である俺から見ても弟は爽やかイケメンだ。
部活もバスケをしておりレギュラー。
もちろん男女からモテている。
ここまでなら爽やかな部活少年だが、俺は弟の秘密を知っている。
弟は部活の先輩と付き合っている。
ちなみに俺たちが通っている高校は男子校。
周りに男同士で付き合っているとは言い難い。

「朝練があるが…家を出るには早すぎるから今頃きっと」

朝から登校デートを楽しんでいるのだろう。
それに朝早く学校に行けば部活仲間のいない部室でイチャイチャできる。
溜まった欲を吐き出せば、部活にも精が出るだろう。
部活をやっていない俺には分からないが、部室でセックスはどんな気分になるのだろうか?
いつ部員が来るか分からないスリリングな所が癖になるのだろうか?
弟と恋人のイチャイチャを妄想していたら、齧っているパンが俺の口から消えた。
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