小説2

2016/08/14 - 無表情君の妄想記録2

2話目
「………」
「……ジャムが塗ってないから甘みが足りないな」
「……人のパンを盗るな」
「腹が減ってな」
「朝食を食べてから来ればいいだろう」
「家に何もなくてな」
「……次からは連絡をしろ。お前のパンくらい焼いておいてやる」
「分かった」

パンを盗った犯人は、俺の幼馴染の佐々木美咲(みさき)だった。
可愛い名前をしているが男だ。
しかも180cm超えで俺と同じく表情の乏しい男だ。
産まれた時から一緒に育った俺と美咲は、何が原因なのか2人揃って無表情がデフォルトである。
どちらかの表情が豊かであれば2人とも無表情ではなかっただろう。

「辰之助(たつのすけ)は?」
「もう学校に向かった」
「そうか」
「ああ」

俺が佐藤龍之助(りゅうのすけ)で、弟が佐藤辰之助。
もう少し書きやすい名前が良かった。
幼い頃は龍の字が書き難くて仕方がなかった。

「龍之助」
「ああ」

美咲が学校に行こうと声をかけてくるので、俺も横に置いていた鞄を手に持ち立ち上がる。
皿は置いておくと昼ごろに起きる父が洗ってくれる。
既に玄関に向かった美咲の後を追いながら戸締りを確認する。
戸締りの確認が終わりリビングを出ようとした俺に声がかかる。
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