三年で初めて同じクラスになるまで私は、松川くんに対し、大人っぽい見た目から寡黙な人だと思っていた。
しかし同じクラスになり、男子とバカをやっている松川くんを見ると、彼も普通の男子高校生なんだなとギャップを感じた。
そのうえ松川くんはノリもいいし、時には気遣いのできる優しい人だということが分かった。
男子バレーボール部といえば及川くんが学校中で人気らしく、私の友達もカッコいいと騒いでいるけど、私は及川くんよりも松川くんの方が魅力的に感じた。
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今日、三年になって初めての席替えがあり、私は廊下側で一番後ろの席になった。
担任の先生の方針だと、席替えは学期毎にしか行われないらしい。
ということは夏休みまではこの席だということだ。
一番後ろの席はプリントを回収して教卓まで持って行かなければならないという任務が自動的に科されるが、否が応でも授業に集中せざるを得ない一番前の席に比べればマシだと内心喜んだ。
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HRが終わり、教室から先生が出て行くと、一斉に生徒が机を運んで座席を移動する。
私は以前の座席から近かった為に、座席の移動が早く済んだ。
「よろしく名字さん。」
私を呼ぶ声の主に視線を向けると、左隣に机を置いた松川くんの姿があった。
「‥‥松川くん!こちらこそよろしくね。」
この良席なら周りに苦手な人が座ろうとどうでもいいと思っていたが、隣が松川くんだと知った私はますますこの席が気に入った。
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雨に濡れた紫陽花の青が一際美しく、夏服の制服にも目が馴染んだ頃、選択授業の書道が自習になった。
選択授業は美術・音楽・書道と3つの科目から二年次に選択し、2組と合同で授業を受ける。
普段なら書道室で授業を受けるのだが、今日は各々教室で自習をするようにと美術の先生に指示された。
一組で書道を選択しているのは、私と松川くんを含めて四人しかおらず、各々自分の席で課題なり読書なり好きなように過ごしていた。
「っ!ま、松川くん‥‥?」
突然のことに隣の席の松川くんに目を向ける。
先ほどまで静かに自習していた松川くんが、突然私の二の腕を触ってきたのだ。
「ん?前から名字さんの二の腕柔らかそうだなって思ってさ。すっごく柔らかいね。」
動揺する私とは対照的に、松川くんは冷静に答えながら今もなお私の二の腕を揉み続ける。
因みに、私と松川くんを除く二人は一番前の席で自習をしているので、私たちの様子には気づいていない。
「あ、あんまり嬉しくないんですけど。」
引き締まった二の腕に憧れる私は、自分の二の腕があまり好きではない。
「俺は好きだけどな。名字さんって色白で柔らかいからキスマーク付けやすそう。」
「な、何言ってんの?!」
松川くんの大胆な発言に驚愕し、目を見開いた。
声を押し殺すようにしてくつくつと笑う松川くんは、そんな私の反応を見て楽しんでいるようにしか見えない。
「‥‥ねぇ。二の腕の柔らかさと胸の柔らかさは同じって本当なのかな。」
セクハラ発言にも関わらず、妖艶な笑みを浮かべて言った松川くんに、どきりとした。
確かに誰が最初に言い出したのか知らないが、女性の二の腕はおっぱいの柔らかさと同じだという俗説を、私も聞いたことがある。
「‥‥知らない!松川くんので試してみれば?!」
これ以上松川くんに構ってられないと思った私はそう吐き捨てて、前を向いた。
自習を再開する私の耳に、松川くんの小さな笑い声が届いた。
今まで私は松川くんのことを良い人だと思っていたが、実は一番の要注意人物なのかもしれない。
今後も隣の席に居続ける松川くんのことを考えると頭が痛くなったのであった。
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