先日の件から松川くんのことを要注意人物と見做した私は、常に彼を警戒した。


だけどやっぱり松川くんは親切で面白くて、良い人に変わりなかった。




そんな松川くんは『俺も下の名前で呼んでいい?』と要望し、私を『名字さん』でなく『名前さん』と呼ぶようになった。


私はラグビー部のマネージャーをやっていて、同じラグビー部員からは『名前』と下の名前で呼ばれている。


松川くんと仲の良いラグビー部員が私の話をよくしていたらしく、『前から呼んでみたかったんだよね』と嬉しそうに笑う松川くんに、少し胸がときめいてしまった。




**




そんなある日、『松川くん=良い人』という認識はやはり私の思い違いだったと確信する出来事が起きたのだ。




昼休み、廊下にある個人ロッカーの整理に没頭している私の背中を、ツーっと下から上へ誰かが指先で撫で上げた。


「ひっ!!」


突然のことに変な声が出てしまい、バッと後ろを振り返る。


そこには私の反応を笑う松川くんがいて、私はそんな松川くんをキッと睨んだ。




「やっぱりそうだ。ド敏感名前ちゃん‥‥?」


「‥‥な、何で知ってるの?」


「ラグビー部の奴らが言ってたから。『名前は肩でも耳でも背中でも、急に触られたらビクってするド敏感だ』って。」




確かに私は、背後から肩をポンと叩かれたり身体の一部を触られたりしただけでもビクっとしてしまう。


それを知ったラグビー部員は私を『ド敏感名前』と何とも卑猥な呼び方をしながら、毎日のように背後から突然声をかけたり肩を叩いて呼び止めるなど悪戯を仕掛けて、私のビビる姿を面白がっているのだ。




「名前さんのどこが性感帯か確かめていい?」


指摘され何も言えずにいる私に、松川くんは妖艶な笑みを浮かべると私の耳に息を吹き掛けるようにして囁いた。




「〜っ!」


耳元で話された所為で身を縮こまらせた私を見て、松川くんは『ヘェ。耳も感じるんだ』と嬉しそうに笑いながら教室へと入っていった。




どうやら一番知られたら危険な松川くんに知られてしまったようだ。