部活中である私は、ドリンクに使う水を補給しに、ウォータージャグを持って水道場まで向かった。


ラグビー部の練習場所近くの水道は、男子バレーボール部の体育館入口前にあるので、スクイズボトルを洗浄する時やウォータージャグに水を溜める時などいつも男子バレーボール部の練習が視界に入る。




するとバレー部は休憩中なのか、水分補給をしながら談笑している松川くんの姿が見えた。


私は松川くんに気づかれないよう体育館入口に背を向けながら、ウォータージャグに水が溜まるのを待った。




「名前さん。」


しかしその奮闘も空しく、松川くんが私の名前を呼んだ。


背を向けているので姿は見えないが、この落ち着いた声で分かる。


『ここで反応したらろくなことがないはずだ』と考えた私は、呼ばれているのにも関わらず無視をした。




「名前さーん。」


振り向くどころか無視し続ける私を、何度も松川くんが呼ぶ。




「名前さん今日も可愛いね。」


頑固な私を振り向かせたいのだろう、松川くんが見え透いた嘘を並べる。




「‥‥名前さん下着透けてるよ?」


「え?!嘘!?」


松川くんの指摘に慌ててバッと確認したが、今着ているTシャツは黒色で下着が透けるはずがない。


松川くんの策略に、まんまと嵌められたのだ。




「やっとこっち見てくれた。」


ジト目で睨む私に向かって、松川くんが穏やかに目を細めて笑う。




そういう顔するのやめて欲しい、ドキドキしてしまうじゃないか。


変なことばかり言う人だけど、やっぱり松川くんはカッコいい。




「ねぇ、今日の下着は何色?」


と思いきや松川くんがニヤニヤしながら近づいてきた。


『前言撤回、やっぱり松川くんは変態だった』と思いながら盛大にため息をつく。




「‥‥そういう松川くんは何色?」


セクハラ質問をはぐらかそうと、私は答えずに質問し返してみた。




「俺?俺はこれだけど。」


すると松川くんは、ペラっとズボンのウエストゴムを捲り下着をチラ見せしてきたのだ。




「い、いきなり見せるな!この公然猥褻!!」


「あれ?目の前で着替えても平気ってラグビー部から聞いたんだけど。」


動揺しながら抗議する私を、松川くんが不思議そうに見る。




確かに、部員は大会などで外でユニフォームに着替えたり、練習終わりにすぐその場でパンツ一丁になったりするが、それを見ても私は何とも思わない。


だが松川くんのは見慣れていないからだろうか、何故だか動揺してしまった。




「照れちゃってるってことは自惚れていいの?」


私の反応に、松川くんが楽しそうに笑う。




『私のことで自惚れて何の得になるのだろうか』と思いながら松川くんを睨み、ようやく水が溜まったウォータージャグを持って去っていった。




後ろで『こらまっつん!女の子にパンツ見せるなんてセクハラ!!』との声が聞こえてきたが、本当にそうだと憤慨しながら練習場所へ向かったのであった。