「名前さん眠いの?」


4限の授業が終わった途端、机に頭を倒してうなだれると、隣の松川くんが話しかけた。


「ん〜?いや、ちょっと身体が怠くて。」


顔だけ松川くんの方を向け、身体はうなだれたままの状態で力無く答える。


「あらら、風邪ひいちゃった?」

「夏バテだと思うよ、体力あんま無いから。つけなきゃとは思うんだけど。」


最近暑い日が続いている上に、冷房の効いた室内と屋外の温度差によって体温の変化が大きくなり過ぎてしまう。
暑さで体力も気力も奪われて、倦怠感に襲われているのだ。


「それなら俺が協力してあげよっか?ベッドの上で。」


私の反応を伺うかのように、机に片手で頬杖をつきながら松川くんが意地悪く笑う。


「‥‥ねえ、セクハラで訴えられたいの?」


机にうなだれたまま、ジロリと松川くんを睨む。


「ははっ、ゴメン。だってさ、隣に名前さんがいるんだよ?好きな子がいたらセクハラもしたくなるでしょ。」

「ごめん、何言ってるのか本気で分からない。」


松川くんの嘘っぽい台詞に、頬をひきつらながら返した。


「松川〜飯食い行こ〜。」


すると救いの手を差し伸べるかのように、三組の花巻くんが廊下側の窓から覗かせた。

松川くんは二つ返事をしながら『ついでに四組に返したいやつあるからちょっと待って』と言って、どこかへ消えた。


「名字さん今日もセクハラされてんの?ホント松川に好かれてるよな。」


松川くんの姿が見えなくなった途端、花巻くんがニヤニヤしながら茶化す。


「いや好かれてないでしょ。」

「だって松川があんな風にするの名字さんだけじゃん。他の女子にしてるの見たことないし。」

「フツー好きな子にセクハラしなくない?自ら嫌われるようなことしてるようなもんじゃん。」


好きな人ができると、良く思われようと優しくしたり思いやりのある行動を普通は心がけるだろう。
松川くんが私にしていることは真逆だ。


「じゃあ名字さんは松川のこと嫌い?」

「‥‥嫌いではないけど。」


面白そうに尋ねる花巻くんから視線を逸らし、もごもごと答える。


「じゃあ好きなの?」

「まさか!セクハラされて好きとか変態じゃん!嫌いだよ嫌い!!」


ジロリと花巻くんを睨みながらムキになって反論する。


「ははっ、名字さん顔真っ赤。」


私の反応に花巻くんが笑っていると、松川くんがやってきた。
私たちの様子を見た松川くんが『何の話してんの?』と尋ねるから、花巻くんが余計なことを言う前に『松川くんの悪口言ってた』と私が言った。


松川くんなんて嫌いだよ!