名前さんとは同じクラスになるまで接点がなかったものの、人となりは結構知っていた。
と言うのも、仲の良いラグビー部数人が名前さんの話をよくしていたからだ。

其奴らは『昨日何もないところでコケた』とか『昨日下ネタふっかけたらこんな返しをしてきた』とか『クールそうだけどかなりギャグセン高くてさ』とか、名前さんのことを毎日のように笑いながら話していた。
それを聞いて、冷たそうな見た目とのギャップに驚いた。
廊下ですれ違う名前さんは、ラグビー部の奴らが言うことは本当なのかと疑うぐらいやっぱり冷たそうで、気づいたら目で追うようになっていた。
その時から名前さんに興味を持ち始めていたのかもしれない。


三年で同じクラスになって、名前さんの本性を目にすることで、気づけば『興味のある人』から『好きな人』へと気持ちが変わっていた。


好きな人ができると、良く思われようと優しくしたり思いやりのある行動を心がけるのが普通だ。
とはいえ対照的に、好きな人にほど意地悪したくなる人も多いと思う。
どうやら俺は後者のタイプだったみたいで、セクハラ紛いなことをしたり揶揄ったりと、名前さんが嫌がるようなことばかりしていた。


男勝りだと思っていた名前さんが恥じらう姿や、顔を真っ赤にしながら必死に刃向かう名前さんの姿を見て、頬が緩まってしまうの感じたし、何か物凄くクるものがあった。

名前さんの気分を害するつもりは無いのだが、嫌がる行為がやめられなかった。
俺なりに不器用な仕方で、彼女の気を引こうとしていたのかもしれない。





「まっつん、あの子のこと好きなの?」


部室で制服に着替えているなか、隣に立つ及川が尋ねた。
及川の言う『あの子』とは、俺が毎日のように挑発に乗せて揶揄っている、名前さんのことを指しているのだと思う。


「うん。好きだよ。」

「‥‥!まあでもさ、好きな子にあんなことしたら嫌われちゃうよ〜?」


さらりと肯定した俺に、一瞬目を見張った及川が不敵な笑みを浮かべて忠告した。


「分かってるけどさ、つい嫌がることをしたくなるんだよね。愛情の裏返しってやつ?」


本当は好きで堪らないのにさ。
『恋をすると女は綺麗になる』ってよく聞くけれど、逆に男は恋をするとカッコ悪くなるばかりだと思う。


「はっ、小学生と変わんねーな。」

「まあ、そうかもね。」


花巻は笑ったが、男はみんないつまで経っても子供の部分を持ち合わせていると思う。
だからこそ、愛情表現も変わらないのかもしれない。


「でも名前ちゃんって靡きそうで靡かないよね〜。それがまたいいんだろうけど。」


こいつ、名前さんと接点ないくせに馴れ馴れしく呼びやがった。


「‥‥とりあえず名前さんのことをちゃん付けするのやめてくんない?汚れそうで嫌なんだけど。」

「まっつんヒドっ!」


俺に指摘された及川は狼狽えているような様子であったが、花巻は俺をニヤついた表情で見ていた。


「‥‥なんだよ花巻。」

「いや別に何にも?ま、頑張れよ!」


花巻はもの言いたげな表情を浮かべると、俺の背中をバシッと叩いた。


こいつ最近名前さんとやけに仲良いんだよな。
この前名前さんが花巻と話していただけでも、俺は嫉妬心が渦巻いた。


‥‥こんなにも俺は、名前さんのことが好きだったのか。