「天童ってニコニコしたり突然キレたり何考えてるかわからないよな。」


「わかる。なんか妖怪ぽいし。」




昼食を済ました昼休み、自分の席でまだ終わらせてなかった六限目に提出の課題をやっていると、近くの席に座る男子達が天童くんの話をしていた。


三年で初めて同じクラスになった天童くんは、明るくて人懐こくてコミュニケーション能力が高いのだが、時には凄く怖い顔でえげつないことを言うこともある。




「名字は天童のことどう思う?」


するとさっきまで2人で話していた男子が突然、私に意見を求めた。




「‥‥いつもニコニコしている人の方が気持ち悪いと私は思うけど。偶にえげつないことを言うけどその点、天童くんは人間らしくていいんじゃない?」


『この場にいない人の悪口を言う方がどうかと思うけど』と思いながらぶっきらぼうに答え、そのまま課題に向き直ったのであった。









その日のHRに席替えが実施され、私は一番後ろの席になった。


座席表を確認した時には別の男子の名前が書かれていたはずなのに、いざ座席を移動してみると隣の席は天童くんだった。


きっと背の高い天童くんで前が見えないとかの理由で交換してもらったのだろうと、私はあまり深く考えなかった。




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天童くんの隣の席になって数日後、休み時間に天童くんがとんでもないことを言い出した。




「名前ちゃんっていきなりエロい声出すよね〜!」


「‥‥は?出してないし。」


からかうように言う天童くんに対して『何言ってんだコイツ』とジト目で見つめながら抗議する。




「出してるって!名前ちゃんってさ、くしゃみとか欠伸とかするときすっごくエロい声だよね〜!あれわざと?」


「なっ‥‥!」


恥ずかしさで言葉を発することもできずに口をパクパク動かしている私を、天童くんがニヤニヤとしながら見つめる。


そんな天童くんから逃げるようにして、次の授業で使う資料集を取りに廊下へ向かったのであった。




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とある日には、こんなセクハラにも遭った。




「名前ちゃんって1人ですることあるの?」


「何を?」


「しらばっくれないでよ〜!自慰だよ自慰!オナニーのこと!」


「はぁ!?するわけないじゃん!!」




下ネタが苦手なわけではないが、こういうことを質問するのはやめて欲しい。




「絶対してるでしょ〜?じゃないとそんな色気出ないもーん!!」



どんなに否定しても、天童くんは意気揚々と肯定する。




昔から大人っぽいと言われる私は、高校生になってから周囲に『その色気はどうやって出してるの?』と聞かれるが、出そうと思って出してるわけではないので分からない。


そう言われるのは私が老け顔だからだと思っていたが、『色気=自慰』とイメージづけられるのは勘弁だ。




「してない!大体男と女を一緒にしないでよ!性欲にも差があるんだし!」


というよりセックスをしたことのない私は、そもそも一人でする方法なんてよく分からないのだ。




「一人でする方法、教えてあげよっか?」


私の心を読み取ったのか、天童くんがニヤニヤしながら私にしか聞こえないような声で言った。


名は体を表すというか、なんという覚りの速さ。




「‥‥いい!!」


そっぽを向いた私に『気が向いたら聞いてね!いつでも待ってるよーん!』と天童くんが楽しそうに言った。




誰がそんなこと聞くか、死んでしまえ!