「…一体何がどうなってこうなんねん」





はぁ、と真子は溜息をつく。今彼の視線の先にいるのは…眼鏡を掛けたまま机に寝伏している蒼乃の姿。先程風呂に入り、綺麗になったはずなのに今目の前にいる彼女はあちこち汚し、髪はぐしゃぐしゃ。彼女の手には本が2、3冊とペンが握られていてどうやら調べ物の最中に寝てしまったようだ。






「おい、こんなところで寝たら風邪引くで、阿呆」


「……んー、喜助ぇ…そこの、ビーカー…取って……それ、酸化させ…て……」


「えらい色気ない寝言やなぁ…ほんまそんなんやったら男寄りつかんのとちゃう?」


「…試作品AとBが……をより強化…させる……」


「ほんま、研究のことしか頭にないんやな。そんな没頭するほど楽しいもんには見えへんわ、こんなん難しい本やら読んでたら頭痛うなるわ」




彼女の手にある本に軽く視線を向けるが内容はさっぱりだ。こんな本を読んで一体何が楽しいというのだろうか。
自分には理解不能だが、色々研究しているときの彼女は普段よりも生き生きして見えるのだから楽しいのだろう。






「あんま無理したら体に毒やで。布団ん中で寝ぇや」


「……真子、さん…」


「なっ!?」






ふと、彼女の口から自分の名前が出た。寝言とはいえ予想外のことに真子は驚きの声を洩らした。






「……その、髪型…変です…」






…が、次の瞬間彼女の口から紡がれた一言に真子はプチンと切れた。







「お前の今の格好の方が変やわ阿呆!」


「…うるさいです、平子さん。何こんな夜中に叫んでいるのですか」






真子の怒鳴り声に流石の蒼乃も目を覚ました。不機嫌そうに眉を寄せ、眼鏡をかけ直しながら真子を睨みつけた。





「うっさいわ、お前がこないところで寝とるから悪いんやろ!」


「…何カッカッしてるんです、カルシウム不足してるんじゃないんですか?よろしければこれ飲みます?試作品A-3です、味と命の保証はしませんが」


「いるかァ!何やねん、このどす黒い飲みもん!くっさ!匂いもありえへん!!」


「出来れば感想を聞かせてほしいです、改良したいので」


「何俺を実験体にしようとしてんねん!その手には乗らへんわ!」







その後もぎゃーぎゃーと言い合う二人だったが…寝言でも自分のことを名前で呼んでくれたことを少し嬉しいと思う気持ちは真子だけの秘密である。