誤解は早めに解いておこう
「えっと、貴方の名前は……?」


『あ?ああ…真撰組の副長、土方十四郎だ』




真撰組。幕府に仕えている江戸の有名な警察。そして、その副長と言えば確か鬼の副長と呼ばれるほど恐ろしい男だと聞いたことがあった。
菜子が自分の知っている知恵を絞り出しながら思い出していると、もう一人、違う顔がやってきた。




『土方さーん、そんなところでナンパっすかァ?』




もう一人、土方さんと同じ服を着た可愛らしい顔つきの男性がこちらに向かってきた。





(…ってナンパ違う!)


「総悟てめぇ…斬り殺されたいのか?」




カチ、と剣を鞘から抜く音が聞こえた。土方さんはさっきとは比べものにならないくらいキツい目付きで総悟、とかいう彼を睨みつけているが……彼は飄々とした態度のままだ。




「私は、花村菜子と申します。先程は困っているところをありがとうございました」


「なんでィ、土方さんのコレじゃないんですかィ?」




くいっと小指を立てて菜子に見せるが菜子は苦笑いを浮かべながら首を左右に振り、否定した。





「ま、こんな美人な方がこんなマヨ臭がひどい土方なんかとそう付き合ったりしやせんか。すいやせんねェ」


「総悟!マヨを馬鹿にすんなっ!!」


「はっ、俺はマヨじゃなくて土方さんを馬鹿にしたんでさァ」


「テメーブッ殺す!!」


「おーおー返り討ちにしてやらァ!」


(一応警察がブッ殺す…とか、返り討ち…とか乱暴な言葉使っていいものなの!?むしろさっきの天人より此方の警察の方が柄が悪いんじゃないの!?)




初対面でそんなことなど言えるわけがなく、菜子の心の声は彼らに届かない。それより、と気分を変えて、江戸に来た当初の目的のために彼らに尋ねることにした。




「あの、すみません…私、坂田銀時と言う名の男性を探しているんですけど…ご存知ありませんか?」





久々の江戸は道が入り組んでいてわかりにくかったので、彼らに銀ちゃんの家を聞いた方が近道だと思い、菜子がそう尋ねた途端、二人の顔色が変わった。




(…あれ?私、何かおかしいことでも言ったかな?普通に聞いてみただけなのに…)


「お前、まさか……」


「旦那のコレですかィ!?」



また総悟君は小指を立てていた。……って違う違う違う!!




「ち、違います!!その、彼とは…銀ちゃんとは昔からの知り合いなんです!!」


「…なんでィ、驚かさないで下せィ。あー全く人騒がせな方だねィ」


「……ごめんなさい…」




総悟の口ぶりに菜子は謝罪の言葉を述べる。が、何かおかしい。




(…あれ、ここ謝るところなの?私何か悪いことしたっけ…?)


「けど旦那のコレじゃないんなら問題ありやせんねィ」


「え、何が……?」


「携帯の番号を教えてくだせィ」




カチ、と携帯を懐から取り出してきた総悟の一言に、菜子と土方は思わずぶっ転けそうになった。




「おい総悟!てめぇ何執務中にナンパしてやがんだぁぁ!!」


「だって土方さん、こんな美人に出会えるだなんてレアですぜィ?こういうチャンスを大事にしねぇと出会いなんて降ってこないでさァ」


「………」




菜子に手を差し出して頼み込む沖田をもう突っ込むしかない土方。その会話に目を丸くして驚くことしか出来ない菜子なのであった。




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