まずは身の上話。
私の名前は光子
平成という世で生き、そして死んだ女でございました
享年は30。まだ若い…とはあまり言えませんが、まだ平均寿命の折り返し地点にも達していない歳でした
まだやりたいこともある
生涯のパートナーさえ、まだいなかった。結婚とかも、してみたかった
けれど、運命とは残酷なものです
思い虚しく、私は事故に遭い死に絶えました
しかし神か仏が慈悲をくださったのでしょう。私は櫛橋光子として、二度目の人生を歩むことを許されたのです
少し気になるのが、平成より先の世ではなく、遥か昔の戦国の世だということですが…
それでも私は幸せに生きました
前世では、社会…そして仕事に縛られて生きていましたから、今生くらいは、好きに生きたいと思ったのです
櫛橋伊定という、播磨の国の城主の娘としてなに不自由のない生活を送り教養を学びました
郷に入っては郷に従え
流石に戦国時代なので、多少の不便さはありましたが慣れてみれば、そう感じることは少ないです
携帯が無かろうと、パソコン、テレビが無かろうと気にはなりません
…しかし、食というものだけはどうも慣れませんでした
今まで食べていたものが無いというのは辛い
時代改変などお構い無しに、私は頑張ったのです
自らの欲望を満たすために
素麺とか、明石焼とか、穴子の量産とか
頑張りました。それはもう、頑張りました
ついでに国内の名産物を今の内から定着させておこうと塩、木綿、陶器、砂糖、絹織物、藍、石材、皮、金物…播磨で思い付くものを片っ端から父に提案しては認めさせ、城下町で生産してもらいました
え、我が儘?いえいえ、これも播磨の国を思えばのことです
そして今後も、私は自由気ままに生きていくのだと、そう思っておりました
そんなある日のことです
「うわああぁぁぁっ!!!なぜじゃぁぁぁ!!」
あの人に会ったのは
その日私は少し外に出たいと思い、こっそりと城を抜け、町を抜け、町外れの道を歩いていました
その時に、一人の青年を見つけました
城下でも見たことのない方でしたし、服もぼろぼろ、薄汚れていていたから、山賊か何かだと思い少し警戒して木に隠れて見てみました
すると、どうでしょう
彼は何もないところで躓き転び、躓いた先には水溜まり
思いっきりダイブしてしまったのです
あまりの不運っぷりに思わず笑ってしまった私は悪くないと思います
「誰だお前さんは!?」
私の笑い声に気付いた彼は顔を真っ赤に染め上げて、私を怒鳴りました
流石に悪いことをしてしまったとは思ったので、木から姿を現し、彼に手拭いを渡しました
「すみません。まさか、あんなにも不運に見舞われていたので…ふふっ」
「笑うな!小生だって、好きでやってる訳じゃない…!」
涙目で言う彼は、とても可愛らしかった
なんかこう…母性本能擽ると言いますか…
「ふふっ、すみません。…よろしければ、私の家へと来ませんか?笑ってしまったお詫びに服をご用意致します」
青年へと手を差し伸べる
彼は目を見開いた後、手を掴んで立ち上がったのだが、立ち上がった後も、手を握られ続けられていた
「…あ、の?」
「…お前さん…」
「え…?」
「お前さんの名前は…」
「あ…申し遅れました。私は光子。櫛橋光子と申します。あなたは?」
「小生は黒田官兵衛だ」
これが、縁でした
そこから彼に求婚され、結婚し、子供も出来ました
そして現在
「……あの、お馬鹿さんが…!」
夫と別居中
現在離縁を考えております
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