#titel#

 ――思えば、貴方と出会えたことは、私の人生においてとても重要なターニング・ポイントだったのだと思います。
 何かと自分を卑下してしまう貴方はきっと「そんなことない」と言うのでしょうが、私がそう思ったのだから、そうなのです。少なくとも、私はそう信じてやみません。

 貴方とさいごに会って、随分と時間が経ちました。記憶の中の貴方は今もあの頃のままなのに、私は毎日のように自身の肉体の衰えを感じる日々を過ごしています。もともと、人並み程度かそれ以下の耐久性でしたから、強い負荷を与えられたら弱るのは当然のことなのでしょうが。ですがそれよりも、もうそれほどの時間が過ぎてしまったという事実にひどく驚きました。

 二人の子供たちも無事に巣立って、素敵な伴侶となる人を連れてきてくれました。この間は、初めて産まれてきた孫の誕生日パーティーをしたんですよ。伝える暇がなくとても申し訳なく思っています。でも、貴方も隠し事の多い人でしたし、その頭の良さであれば、察することは容易だと信じていた――と、言い訳しておきます。

 今日は天気も良好で、陽射しも温かく、この頃は寝込むことが多かったのですが、少しくらいなら起きていても大丈夫だと判断し、こうして手紙をしたためている次第です。


 ――そういえば、この頃、貴方が夢によく現れます。
 私は夢をあまり見ないタイプの人間だったのですが、不思議な事に、今日見た夢には全て貴方が出てきました。夕暮れ、高校の教室で、私と貴方が二人きりで他愛ない話をしている夢。声は聞こえなかったのですが、私はとても喜んでいたので、きっと貴方と会話をしていたのでしょう。

 私はこう見えてとても単純な人間です。中身は俗っぽい上に、貴方の初恋の人のように高潔な意思など一ミリも持ち合わせていない、負けず嫌いで、人見知りで、それを全てひた隠しにして、要領も悪い、優秀なふりをしていただけの凡人。だから、貴方と話をするということは、私にとって、とても重要で、最難度のミッションでもありました。
 何せ、貴方はとても優秀でしたし、人と距離を置いていましたから。貴方がどうしたら私を見てくれるのか、たくさん考えたものです。
 貴方からしてみれば、何故私みたいな女が構ってくるのか、さぞ不思議だったでしょう。私も、自分で自分が不思議でたまりませんでした。私はそれまで、誰か特定の人物に対して強く関わりを持ちたいと思うことは無かったので。

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