感じるものは人それぞれ
長旅とは言っても、いつもと同じロングTシャツを幾つかとジーンズやカーゴパンツを詰めるだけである。
それから防寒というには少々心許ないいつものスタジャンを羽織れば家の中での準備は完了だ。
それからすぐにデパートへ行って軽く道具を揃えていると、本コーナーのところでジム協会が監修するポケモントレーナー入門編という本を目にした。
「あ、」
立ち止まり、パラパラとめくってみるとちょうどマツバの紹介が出ていたところを開く。
紹介には、千里眼を持つ修験者というロゴが大きく書かれ、「ミステリアス」「美青年」など賞賛の言葉が並んでいた。
本当にジムリーダーだったんだなと改めて思うと同時に、ついでにマツバに顔を出そうと思い立ち適当に美味しそうな菓子を買っていくことにする。
それから、ボールに入りたがらないイーブイをいつも通り連れた状態で早速エンジュの方へ向かうことにした。
特に何事もなく順調に進み、途中であの双子の姉妹トレーナーと二人の女性トレーナーに会い、軽く談笑した後にエンジュシティへ到着する。
まだまだ日が高かった為、ポケモンセンターへの宿泊予約は別に後でも大丈夫だろうと後回しにし、マツバに会いに行くことにした。
「すいません、」
「おや、漢方屋の坊じゃないか」
と言いながらアッシュの声がけにひょっこりと顔を出したのはジムトレーナーの一人であるイタコだ。
24歳にもなって坊扱いかと思わんでもないが、ベテランの彼女にとってはトレーナーとしても人間としてもまだまだ坊扱いであろうと内心納得する。
マツバはいるかと問うと今日はバトルがないので事務所で待っていると言われ、疑問に思いながらもアッシュはそちらに回ることにした。
「やぁアッシュ君、久しぶりだね」
「…久しぶり。よく分かったな」
驚くかと思っていたアッシュだったが、予想とは違ってマツバはアッシュが来ることが分かっていたかのように座っていた為逆に驚かされてしまった。
「千里眼と言って、時折遠くのことや未来が視えることがあるんだよ」と言われたアッシュは、そういえば本にも書いてあったなとデパートで見た内容を思い返す。
そんな事もあるのかとあっさり受け入れたアッシュはへぇー、と感心したようにほうけた顔をした。
その間にマツバのゲンガーがふよふよと此方へ寄ってきてケケケッと笑っている。
どうやら久しぶりと挨拶したらしいので、アッシュもコクリと頷いて反応を返した。
マツバもイーブイに久しぶりと挨拶していたが、イーブイは眉間にシワを寄せたままプイとそっぽを向いている。
「こら、イーブイ。ごめんな。……そうそう、土産を持ってきたぞ」
コガネで一番美味いらしいと告げると、ありがとうと言いながらマツバはお菓子を受け取る。
そして今日の分の仕事は終わったから、良かったらうちへ来ないかと誘われた。
「いいのか?」
「色々話も聞きたいしね」
今日は置いてきているけど、ゴースも会いたがってたから、とマツバは付け足す。
「じゃあ、お邪魔しようかな」
そう告げると一つ頷いたマツバは軽く身支度を整え、アッシュと共にジムを後にした。
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