顔は似ずとも性格は似る
船の汽笛を聞き、アッシュはタンバシティに上陸したことを知り下船の準備を始めた。
タンバシティは来る時に見た渦潮ばかりの荒海からは程遠い長閑な町並みの小さな島である。
浜辺には竹で組まれた干台で貝類らしきものを干している様子が見える。
周りが荒い波が押し寄せる海に囲まれているせいか、息を吸い込むとアサギシティ以上に磯の香りが強く感じられる気がした。
さて、肝心の薬屋は何処だろうかと見渡すが、ポケモンセンターがあること以外よく分からない。
とりあえず誰かに訪ねてみようとセンターのすぐ近くを歩く女性に声をかけると、丁度その先がタンバ唯一の薬屋だという。
彼女の言う通り歩いていくと、小さな看板を掲げる家が見えた。
此処はタンバの薬屋
創業500年
薬の相談待っております
潮風に晒されて風化したのか、かなり読みづらいがきちんとそう書かれている。
確認した後、アッシュは薬屋の扉を開け、潮風を避けるようにするりと中に入り込んだ。
店内にはメガネを掛けた男性がカウンターで肘をついていた。
「ん?何かようかね?薬を買うのかね?」
「いえ、配達に来ました。漢方屋です」
アッシュがそう告げると荷物を取り出す暇もなく相手がずいっと身を乗り出してきた。
「お前さんがそうかいな…!そうかい!そうかい!」
一体何事かと驚いていると、上から下までほうほうと興味津々な様子で見回した店主は納得したように頷く。
「よし!ならうちもちと手伝ってぇな!」
「は……?!」
「そんなとこ突っ立っとらんで中はいり!あ、荷物此処置いてな……!ほんで手洗いしたら此処座り…!」
座ったら仕分け手伝うてな……!と矢継ぎ早に言葉を掛けられアッシュは頭いっぱいに疑問符を浮かべるが、それすらも許さない店主は早う早うと急かしてくる。
そのままアッシュはあれよあれよという間に薬屋の手伝いに駆り出されてしまった。
「……ブイブイ!」
「……いや、知らん。こっちが聞きたいくらいだ」
お疲れ様!今日はそろそろ終いにしとこうか、明日また来てな!と店を追い出されたアッシュは疲れきりポケモンセンターでとりあえず宿を取ることにした。
部屋につくとわ出てきたイーブイにどういう事だと盛大に文句を言われるもアッシュ自身がよく分かっていない為どうとも言い訳出来ない。
「一体何だったんだ……というか、届け物渡せてないし」
「ブーイ」
何しに行ったんだと呆れたように言われ、「それは自分でも思う」と肯定するしかないアッシュである。
「とにかく、爺さんに連絡入れてみよう…」
どうすることも出来ずアッシュはポケギアからカンポウへ連絡を入れた。
何気にポケギアからカンポウへ連絡を入れるのは初めてである。
「あ、爺さんか?」
「おお!アッシュじゃったか!話は聞いておるよ!」
「は?何が……」
以前にも聞いたことのある流れに嫌な予感しかしないアッシュは思わず聞き返すが、聞き返してからしまったと後悔した。
「今日もぎょうさん手伝ってくれたと言っていたぞ!それも明日も手伝ってくれるとか。きちんと手当は出すからそのまま是非手伝ってやって欲しいんじゃ!」
わしが行けたらいいんじゃが、年を取るとなかなか行けんくてのぅとカンポウが腰をさする音なのか衣擦れの音が鳴った。
「……そんなわけじゃから何日かそっちでわしの代わりに手伝いを頼むぞ」
じゃあ、店主によろしく頼むと言うだけ言ったカンポウは無慈悲にも通信を切ってしまった。
「……ブーイ」
「……あぁ、そうだな」
良いように使われてるといったニュアンスのことを言ったイーブイにアッシュは肩を落として同意したのであった。
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