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翌日からというもの、カンポウによる本格的な漢方薬の授業か始まった。
基本的なことは彼が昔学んだという教科書と薬学ノートを参考にし、カンポウの仕事の合間を縫って講義を受ける。こちらは勉強の甲斐あって何とか読めるのが幸いである。
カンポウが仕事をしている間講義は休みだったがらその様子を観察し実際にどう作っていくのかを自主的に学ぶことにした。
作っている間それらの薬草達について色々教えてくれるのでこちらはこちらで結構面白い。まだ扱ったことはないが扱う際のコツなんかも教えてくれるので今後が少し楽しみだ。


「ポケモン達に漢方を使う上では、ポケモンが懐きにくくなるというデメリットがある。ポケモンに使う漢方は苦いものが多いからのう。なつき進化をさせたい場合なんぞ特に慎重になるトレーナーも多いじゃろう」
「なつき進化?」

アッシュが首をかしげるとカンポウはぽんっと手を打った。

「おぉ、アッシュは知らないのか!ポケモンの殆どが戦って経験を積み進化する。しかし中にはトレーナーと一定の信頼をもつことで進化するポケモンがいるんじゃよ」
「へぇ!」
「イーブイもそのうちの一匹じゃ。イーブイは昼に進化するとエーフィ、夜に進化するとブラッキーというポケモンになるんじゃ」

自身の名を呼ばれたからか、イーブイがピクリと耳を動かしたのが見えた。
そちらを見ると何の話だと言わんばかりに見つめ返す瞳と目が合う。
話の内容が分かってか否か、ケッと言わんばかりにしかめた顔をして顔を伏せる。どうやらうちのイーブイになつき進化は程遠いらしい。

「まぁまぁ、そのイーブイはそもそも進化したくないようじゃからなぁ。無理せんでも良いじゃろうて」

実際、アッシュは何に進化してほしいなとどいった具体的な希望がある訳ではないのでイーブイが進化してもしなくても構わない。
進化したいならすればいいし、したくないならそのままいればいい。

「さて、そんなわけでデメリットがある漢方じゃが、メリットも大きい。1番は植物由来であることじゃな。ポケモン漢方はポケモンの日常生活の支援にとても合っている。特に病気がちなポケモンや年老いたポケモンなど、身体の弱いポケモンには相性が良いんじゃよ」

そうか、ポケモンも年をとるのかと当たり前のことに改めて気づき、思わずイーブイを見る。
相変わらず不満そうな顔をしているが、まだまだ元気である。

「若いうちは元気で怪我や病気をしてもすぐに治る個体が多いが、年をとるとそうはいかん。あちこち支障が出てくる上に薬自体が合わないせいで治療が出来ない個体も出てくる」

そんな時に活躍出来るのがポケモン漢方じゃ、とカンポウは力説した。

「そうじゃな。1番最近のだと炎タイプのポケモンにキュウコンというポケモンがおる。尻尾が9つ生えた美しい毛並みのポケモンじゃ。勿論炎タイプだから口から炎を吐くんじゃが年老いてくるとそのせいで喉や胃を痛める個体がおるんじゃ」
「えーと、人間でいうところの胃酸過多みたいな感じですか?」

アッシュの言葉にカンポウは頷いた。

「そうとも言えるかの。炎タイプのポケモンは炎袋という特別な器官を持っていてそこから炎を放出するが、体が弱ってくるとそれが近くの臓器に影響を与えるようじゃの。喉を痛めるのは炎の温度に耐えられなくなってきているか、一時的な炎症かのどちらかが有力じゃ。ポケモン医学ならば袋内の炎の力を一定値まで抑えるよう薬を処方したり、最悪どうしようもない場合は炎袋の摘出という場合もある。しかし身体の弱い個体や年老いた個体に手術はかなりの負担じゃ。そこでわしはチーゴの実を使った漢方薬を使用した」
「チーゴの実って、あの苦いやつですよね」

きのみは時に人間も口にする食料である。特にモモンのみなどはとても軟らかい上に甘い為人気が高い。アッシュも大好物のきのみだ。
一方、チーゴの実は皮が固くて食べると苦いという知識しかない。

「チーゴの実にはポケモンの火傷を治す効果があっての。その性質を利用した喉の抗炎症薬を作ったんじゃよ。これならば負担も少ない上に炎症も治すことが出来る。勿論火力調整などはポケモン医学が専門じゃ。わしらにできるのは日常生活を送る上で負担を減らしてやれることだ。アッシュの言う通り苦いのが難点だがの。幸いにもその個体は苦い味が好きだったので何とか続いておるようじゃ」

普段は飄々としたカンポウの印象が変わる話である。思わず隣のイーブイを見やると、イーブイも同じことを思ったのかポカンとした表情でカンポウを見ていた。
その後ろでラッタはふふんと胸を張っている。言葉はないがどうだ、凄いだろうというのがひしひしと伝わってくる。
思わずそれに頷くとラッタはとても満足そうに尻尾を床に叩きつけた。
ウパーはというと、何に驚いているのか理解出来なかったらしく、首を傾げた。そのうち興味がなくなったらしく、乾燥した吊るしキノコ見たさにピョンピョン飛び跳ね――ラッタに怒られた。

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