へし切長谷部は出来た刀剣男士だった。出陣、内番、近侍、その他の雑務を全て完璧にこなすのは至難の業だろう。それを、へし切長谷部は一振りでやってのけるのだ。
その素晴らしさに感銘を受けつつ、心を病ませている審神者が、ここにひとり。彼は好奇心旺盛かつ朗らかな青年で、周りをよく見ることの出来るムードメーカー的な存在であった。鯰尾藤四郎と岩融と燭台切光忠を足して3で割ったような、実際には考えたくもない組み合わせだが、そんな性格の持ち主だった。彼の特技は「人を心配すること」らしい。なんとも不思議な特技ではあるが、彼を知る者なら納得のいくものであるようだ。
話を戻すと、彼は出来すぎたへし切長谷部の身を案じ、心を痛めているのだ。実際には心というより、胃というのが正しい。へし切長谷部のことを思うと、胃がキリキリと痛むようになった。そう聞いた時は心底彼に同情した。

「おい長谷部。お前のそれ、もう少しどうにかならないのか」
「それ、とは一体何のことでしょう?」
「それだよそれ!お前が今、目を通してる書類のことだ!」
「はァ……?」
「だからァ!働き過ぎだって言ってんの!」
「主、俺のことなら大丈夫です。こう見えても元は刀。人間のようにヤワではありませんよ」

この結果は毎度のことだった。いつもこの結論にたどり着く。しかし、今日の彼はひと味違った。最後の責め文句を、へし切長谷部に突きつけたのだ。

「お前が動くということは、それだけで俺の霊力を使用してるってことだ。この意味、頭のいいお前なら理解できるよなァ?長谷部ェ?」

うっ、と唸ったへし切長谷部の眉間には深いシワが刻まれている。彼は、何も憎くて言っているわけではない。本当に、心から心配しているのだ。しかしそれとは裏腹な、してやった感満載の表情。なるほど、彼は少しひねくれているらしい。
俯き押し黙るへし切長谷部と、ドヤ顔の審神者。傍から見たら、なんとも異様な光景だ。ふと、へし切長谷部が顔を上げる。ぎょっとした。あの、へし切長谷部が、泣いている。

「えっ………え?はせ、…えええっ!!何?なんで泣いてんの!?」
「すみませッ、うぐっ……主に、負担をかけて、いたなんて、ヒック…もうじわげありまぜんッ!」
「いやいやいや!え?謝るか泣くかどっちかにし……いや、違うよな?俺が悪かったよな!?うんうん、俺がいけなかったね!!だから泣きやめって、な?」





「いや〜、そんなこともあったなァ!あん時はほんと、どうしようかと思ったよ〜。お前がいてくれなきゃ、俺、審神者辞めてたかもしれねェわ!」
「おいおい、お前飲み過ぎじゃね?ほら、俺んとこの近侍も迎えに来たし、今日はそろそろお開きにしようぜ」
「んあ?もうそんな時間か……じゃ、あと1杯だけな!」
「だから、飲み過ぎだって…。あ、そういや、最終的にどうなったわけ?お前んとこのへし切長谷部」
「あ〜、それな!聞いてくれよ!泣き止んだ後、すげー勢いで土下座してきて、今のは忘れてくださいッ!って顔真っ赤にしてやがんの!俺、ビックリして真顔に「お迎えに参上したというのに、主は何をペラペラとお話になっているのですか?」エッ、あ、長谷部……おつかれ」
「首を差し出せ」
「ちょ、長谷部!それ違う!どこぞの文系ゴリラァァア!アッ、やめ……待って、はせ、いやあああああああ!!!」

こんな姿の彼らを見て、審神者に同情したいつかの自分が恥ずかしい。これからもこいつらはこんな感じなのだろう。へし切長谷部は多くの仕事をこなすし、彼は心配性を発揮するし、2人はずっとイチャイチャし続ける。愛されてるのはいいことだ。
ま、他人の本丸のことだし、口出しするのも野暮ってもんだろ?俺から言えることはただひとつ。末永く爆発しろ、リア充共め。


title:俺があんたに好きと言われるまで


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