シロツメクサの動乱 - 春風
水面下で育まれる淡い恋心

視点:丸井ブン太


「あ!丸井くーん!」

部活が終わって俺が校門を出ようとすると、もう随分と聞き慣れた声が、大声で俺の名前を呼んだ。声のした方向に目をやると、やっぱり思い通りの人物がそこにいた。


「お、ジロくんじゃん。まーた見学かよ?お前もいつもいつも飽きねーなあ…」
「丸井くんの技はいつ見ても最高だもんね!今日も丸井くん絶好調だったCー!」
「はいはい、サンキュな」

そこにいたのは氷帝テニス部の芥川慈郎。コイツ、ホント俺のこと好き過ぎんだろい…。
すると芥川は、俺の隣にぴったりと並んで歩き始めた。


「丸井くん、今からどこか行くの?」
「ああ。今から新しく湘南にできたジェラート専門店に行くんだけど、お前も行くか?」
「ホントに?!行く行くー!」


そんなこんなで、俺とジロくんは二人でジェラートを食べに行くことになった。




後から思い直すと、男二人でスイーツ食いに行くのってどーなんだよって思ったけど、店内には意外と男性客の姿もあった。つっても圧倒的に多いのはカップルなんだけど。


「何コレ?!超おいC〜!!」

可愛い女店員さんからカップを受け取って席に着くなり、ジロくんは鮮やかな黄色をしたそれをピンク色のスプーンで掬ってパクッと頬張ると、目をキラキラさせてそう言った。
そんなジロくんに続いて、俺も赤の粒々が広がるそれを一口頬張った。


「わお、うっめえ!」
「だよね!俺こんな美味しいアイス初めて食ったCー!」
「いや、これジェラートだろい…」

俺が訂正してやっても「そうなの?」とすっ惚けた返答をして来たジロくんの将来がちょっと心配になる。…コイツ、ホントこれから先大丈夫か?ある意味世間知らずの跡部に甘やかされてばっかだから、余計にこうも世間知らずになるんだろうな。でもこれから跡部に頼ってばかりじゃ生きてけねーだろい。俺の知ってる奴の中で、社会に出ちゃダメな男暫定で断トツのナンバーワンだぜ…。


「蘭さんはどれにする?」


口の中で蕩けるそれを堪能していると、何だか聞き覚えのある声が耳に入って来た俺は、くるりとカウンターの方へ体を向けた。


「うーん、いっぱい種類があるから迷っちゃうね…。決めた、私はフレッシュミルクって名前のと…このラズベリー味にしようかな。リョーマくんは?」
「なら俺は…このマンダリーノってやつとピスタチオにする」
「へぇ〜マンダリーノってオレンジのことかな?それも美味しそうだね」
「なら後で交換しようよ」
「フフ、そうね」


俺たちから少し離れたそこには、仲睦まじげにガラス越しにアイスを選ぶ男女の二人組みがいた。それぞれ学ランとセーラー服の制服姿だ。
つーか、男にしては少し高めの声に小柄な後ろ姿、極め付けは女の子の方が呼んだ“リョーマくん”っていう名前…やっぱりアイツで間違いない。青学の一年生ルーキー、越前リョーマだ。

すると俺の視線が気になったのか、ジロくんが俺の背後へと目をやる。すると、セーラー服を来たその女の子の方に目を奪われたのか、またもや軽く興奮したようにその目をキラキラとさせた。


「わぁ、すっごく可愛い女の子だね〜!」
「つーかアレ、青学の越前じゃね?…わお、あのルーキーもいっちょ前にデートかよぃ」
「ヘェ〜一年生で二人っきりでデートって凄いね〜」

そう言ったジロくんは、再び目の前のマンゴーのジェラートにがっつき出した。今のジロくんは、越前の方にはマンゴー以上の興味は出ないみたいだ。
つーか、デートって普通男と女の二人っきりに決まってんだろい。それとも何だ、コイツとのデートはもれなく保護者でも付いて来んのか?…跡部ならやり兼ねねぇな…うわぁ、引くわぁ…。


「今日は俺が付き合って貰ったんだから、ここは俺に払わせて」
「フフ、ならお言葉に甘えようかな。…ありがとうね、リョーマくん」
「別に。…俺こそ、ここまで付いて来てくれてありがとう、蘭さん」


すると、越前は女の子の分の代金も手早く済ませて、その子の手を引いて店の奥へと誘導して行った。…妙に様になってるのが、これまたちょっとムカつく。アイツ帰国子女だとか言ってたもんな、だからあんなにませてんのかも。伊達にルーキーの名を背負ってる訳じゃねーってことかよぃ。
蘭さんとか呼んでたから、もしかしてあの女の子が越前よりも年上なのか?へぇ、やるじゃん。今度もし合同合宿とかあったら、こっそり揶揄ってやろっかな。

何だか人のデートを(それも、相手はあの一年ルーキー)故意じゃなくても覗いてしまったのも、何だかちょっと罪悪感が生まれる。でも、そんな中ジロくんと二人で食べたストロベリーのジェラートは、甘酸っぱくて美味しかった。


──その翌々日のミーティングで、幸村くんから「氷帝から合同合宿の誘いが持ち掛けられた」と聞かされた俺が椅子から転げ落ちるくらいにまで驚愕しちまったのは、言うまでもない。

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