君の鼓動と僕の鼓動 - 春風



ザワザワ―………


蘭ちゃんが倒れた翌日の朝。
僕の心は、自分でも驚くぐらいに酷く波立っていた。

女の子一人にここまで振り回されている僕も僕だけど、昨日はろくに寝れなかったんだよね。僕の心と同じくらいに騒がしい朝のSHR前の教室の中、僕は一人席に座って溜め息を吐いた。


「さっさと座れ、SHR始めんぞ!」
「!!」


すると、土方先生が教室に入って来た。開口早々小言だなんて、相変わらず口煩い人だよね。

昨日蘭ちゃんを送ったのは、土方先生だ。この仮説が僕の勘違いなら、どれ程良いことか。

でも、勘違いじゃなかったなら?あんなに熱が高くって意識を失って倒れた蘭ちゃんだ、まともに歩けている訳がない。
となると、必然的に土方先生が蘭ちゃんを抱き上げるかおぶるかをして、要するにあの子の体に触れて運んだってことになる。


「………じ……コラ、総司!」
「!」


自分を呼ぶ声に気が付いて目線を上げると、土方先生が目の前にいた。


「お前、今の連絡聞いてたか?」
「…何をですか?」
「ったく……ボーッとしてんじゃねぇよ。気を付けろ、最近多いぞ」
「はーい」


まさか、先生の事を考えていたんですー、なんて言える訳がない。

そう自分で自嘲していると、土方先生が机の合間の通路である、僕の横を通り過ぎた時に鼻に届いた仄かな香り。


フワッ


「?」


この香り、つい最近嗅いだことがある。けど、いつどこで?


「………あ…」


蘭ちゃんが洗って返してくれた、あの胴着の柔軟剤の匂いと一緒だと気付いたのは直ぐ後だった。


ここで僕の予想は確信に変わったんだ。
土方先生と蘭ちゃんの間には、何かがあるんだ。信じたくなんか、ないけど。


第九章 好敵手の存在

- 1 / 4 -
春風