革命2


そもそものこの事の発端は、一ヶ月と少し前だった。

鈴宮学園の新しい生徒会が発足して、早数週間。
仕事にも慣れて来たであろうこの学園に、ある転校生がこの学園にやって来たのだ。


彼の名前は、樋口花蓮。
女の子のような可愛らしい名前をしているが、正真正銘の少し背の小さい少年だった。
可愛い名前とは裏腹に、樋口花蓮の見た目は周りに"マリモ"と称されるようなボサボサの黒髪と、いつの年代のものかもわからないような厚い瓶底眼鏡、という出で立ちだった。
その姿は学園内外の誰もが異質と感じるものだった。

彼が転校してきた初日。
どうしたことか、この学園に在する"人気者"たちが、瞬く間に樋口花蓮に夢中になった。


これは余談だが、鈴宮学園は男子校であり、中等部の頃から全寮制に切り替わる、という制度がある。

そんな彼らの間には、思春期故か同性同士の恋愛や性的接触があちらこちらに蔓延っているのは珍しくない。

顔が整った生徒は、世間で言う芸能人のように崇められ、そこに家柄や高い能力を身につけているものがいれば、この学園では高確率で"親衛隊"というものが設立される。

"親衛隊"

それは所謂ファンの集まりと言うべきだろうか。
憧れに似た感情を持つ人間に対し、彼らは時に慕い、時に守る、という名目の元、たくさんの生徒たちが設立し、活躍の場を広げているのだ。

そんな顔重視、家柄重視、才能重視のこの学園では、もちろん生徒会選挙の投票もほとんどがこの3つの基準でなされていた。

顔の造形が整ったものがこの学園を治める。

それはこの学園で、いつの日か当たり前のように定着し、伝承され続けていたのだった。



さて、話は戻るが、多くの親衛隊を抱える"人気者"たちを惹き付けた樋口花蓮という生徒の影響力はその日のうちに生徒会にやってきた。

副会長、会計、書記。

この3人が、例のごとく樋口花蓮の虜となったのだった。

また、その次の日。
会長を除いた全員が生徒会の職務を一切放棄した。


そして、その日から学園は荒れに荒れ始めたのだった。


樋口花蓮の性格は一言で言えば直情径行、猪突猛進。
ある一部の者は厚顔無恥と吐き捨てていた。


学校内の装飾品や物品類は樋口花蓮の小さな身体に秘められた強大な力で破壊され、今まで穏やかに想い人を慕っていた親衛隊は、過激派へと変貌した。

増える制裁と称した悪質ないじめ、リンチ、性的暴行。

生徒会室では生徒会長一人だけが膨大な書類の束を処理していた。

風紀と教師は生徒の違反行動に対する生徒指導、報告書の作成、見回りの強化に追われ、人手不足は悪化の一歩を辿っていた。

一方で、嘘かどうかもわからない噂が人を回り、学園を回り、その状況をまた悪化させる。

最早そこはある意味地獄絵図と言っても過言ではなかっただろう。


しかし、この集会の二週間前。


あっという間に腐敗してしまった学園を見かねて、密かに動き始めた者がいた。


それが、マイクを持ち堂々と壇上に立つ明日宮瀬名と、その傍に立つ如月綾人だった。


この二人の詳細について今は割愛するとして、彼らがまず行ったのは、生徒会の役員達による職務怠慢の証拠を集めだった。
数多くの器物損壊で風紀を悩ませているにもかかわらず、樋口花蓮の責任が一切取られなかった原因を、二人は突き止めた。

黒幕は校長。

学園の校長はこの学校で今現在1番理事長に近い存在と言われている。
それは理事長の代理でもあるし、今年から、理事長の側近である秘書が入院をすることになり、その役割が多く校長に分けられたからだ。

つまり、仕事を多く分け与えられるということは責任と一緒に権力も集中してしまうという事なのだ。

故に入学式以降、理事長が海外への長期出張が決まると、それは好機だと言わんばかりに、校長は当時他の高校でお手上げ状態であった甥の樋口花蓮を裏口入学させたのであった。

それを海外出張中の理事長へと報告すれば、もちろん「知らない」という返事が返って来た。

明日宮瀬名と如月綾人はすぐに今の学校の悲惨な現状を理事長に報告。

正式な手続きにおいて、生徒会役員のリコール及び校長の解任。そして、樋口花蓮の器物破損による重い処罰を与えることがその日に決まったのだった。

それからまた1週間後。

この学園にうんざりしていた数人の有志を集い、臨時の選挙管理委員会が発足された。
報告書をまとめ、校長の不正の数々を細かく調べた後、緊急で一時帰国した理事長の承認の元、全生徒が今日、体育館に集められたのだった。

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