音の悪夢〜開幕〜


地殻振動停止作戦。
タルタロスを地殻に沈めるという危険極まりない作戦。
作戦妨害に現れ心中上等だとのたまったシンクを何とか撃破し、彼が地殻に落ちた時突如彼女は現れた。

白いワンピースをたなびかせ、墜落していったシンクを救い上げたかと思うと消えていた譜陣を一瞬にして復活させたのだ。
細腕にも関わらず気絶したシンクを肩に抱えて笑う彼女に絶句していたメンバーだったが、ジェイドの誘導を受けてまずは地殻から脱出することを優先した。

見慣れた譜石帯の広がる空の下に帰ってきた時に広がった安堵。
彼女…アルメフィリアと名乗った少女は自己紹介の後、ノエルにシェリダンに向かうように言う。
ティアの治療のためベルケントに向かうのが先だろうと何人かが喚いたが、アルメフィリアは今回の作戦のために犠牲になった人々を追悼することも、家族を亡くしたノエルを気遣うこともできないのかと不愉快そうに言った。
ルークの賛同を得て微かに震えるノエルにそのままシェリダンに向かうように言ったアルメフィリアは、そこでようやく自らが何者か名乗る。


即ち、自分は音と快楽を司る悪魔である、と。


呆れのため息と、不快そうな顔をする面々。
何を馬鹿なことを、子供の遊びに付き合ってる暇はない、ふざけないでと好きに口を開く一行の中で、ルークだけが本当なのか?とアルメフィリアに問いかけた。
そんなルークに対しティアが呆れたように信じるの?と聞いたが、ルークは地殻から脱出した際のことを持ち出しアレは人間業ではない、だから悪魔だといわれれば納得すると答えた。

しかしそんなルークに、やはり皆は呆れるだけだった。
アレは何かしらのトリックだろう、そういった術だろうと。
アルメフィリアはそんなメンバーに嘲笑を向けてから、イオンの腕を掴んで文字通り姿を消してしまった。

一瞬にして姿を消したアルメフィリアに呆然とする一行だったが、すぐにイオンを探さなければと話し始める。
ルークを抜いたメンバーで話し始めるのを横目で見ながら、ルークはぼんやりと思った。

レプリカであるシンクとイオンを連れて行った少女。
どうせなら、自分も連れて行ってくれれば良かったのに、と。










アルメフィリアを探し当てた一行は、不思議な空間に辿りついた。
洞窟を抜けなければ行けないと言われ、アルビオールから降りて徒歩で移動していたのだが、洞窟を抜けた途端全く別の地に付いてしまったのではないかと思うほど景色が様変わりしていたのだ。

薄桃色の花をたくさん付けた木々は風が拭くたびに小さな花弁を撒き散らし、地面に落ちた大量の花弁のおかげで同色のカーペットが敷かれているように見える。
所々に岩が突き出していて、少し離れた場所には赤い長椅子が置かれていた。

「ふむ、先程とは随分環境が違いますね」

「大佐、これは一体…」

「解りませんが、注意は必要でしょう」

道を作るように左右均等に植えられている木々の間を抜け、奥に見える豪邸へと足を向ける。
そしてその豪邸の入り口の脇で、緑の髪の少年が二人、テーブルセットを広げてのんびりとお茶を飲んでいた。

「イオン様!」

即座にアニスが反応し、少年に駆け寄った。
しかしカップを持った少年は首をかしげ、椅子に座ったまま駆け寄ってくるアニスを見ているだけだ。

「もう、探したんですよぉ。何呑気にお茶なんか飲んでるんですかぁ!」

「はい?」

「……アンタ、やっぱ馬鹿だね」

もう一人の緑の髪の少年、テーブルに肘をつき足を組んでお茶を飲むという無作法極まり無い少年が呆れたように言う。
アニスはムッとしてその少年を見たが、すぐに気付いた。

「アンタ…シンク!何でシンクがイオン様と一緒に居るわけぇ!?」

「シンク…イオン様をどうするつもり!?」

「イオンから離れなさい!」

ティアが怒鳴り、ナタリアが弓を引き絞る。
その背後でルークは悲しげに顔を歪め、隣でいつでも抜刀できる体勢のガイに声をかけた。

「なぁガイ…早くイオンを探そう。あいつはイオンじゃない」

「え?何言ってるんだルーク…」

「よく解ったね。コイツはダンテ。4番目のイオンレプリカだよ。あんた達と一緒に行動してた7番目じゃない」

馬鹿なことを言うなと言おうとしたガイの言葉を遮って、シンクが嘲笑交じりに答える。
いつものように髪を立てていないためにすぐに気付けなかったものの、あざ笑うようなその表情だけは以前と同じだ。
シンクの言葉にアニスは目を見開き、ティアとナタリアは目に見えて動揺した。
そんな中、ダンテと呼ばれた少年はカップをソーサーに置いてにっこりと微笑んだ。

「ご紹介に預かりました、ダンテと申します。さて、今日はお客様が来られるとは聞いては居ないのですが…」

「侵入者の間違いだろ。ボケッとしてないでさっさとアルメフィリア呼んだら?」

「アルメフィリアならとっくに気付いてると思いますよ。今はお菓子を作ってる最中ですから、顔を出すのが面倒なだけでしょう」

「あぁ…フローリアンとイオンにねだられてたね、そういえば」

「トリルとフィーネも楽しみにしていましたから、アルメフィリアとしてはそちらを優先したいのでしょう」

呑気な会話を繰り広げる同じ顔をした少年たちの前でどうしたら良いか解らない中、ジェイドはナタリアに弓を収めるように言った。
ナタリアは渋りながらもそれに従い、傍観を貫いていたジェイドが一歩前に出る。

「私たちはイオン様を返していただきたく参りました。アルメフィリアを呼んで頂くか、案内していただくわけには参りませんか?」

「それは僕では判断しかねますね。僕は養われている身なので。アルメフィリアに聞いてきますから、少し待っていただけますか?」

「解りました。お願いします」

緊迫した空気の中表面上だけは穏やかに会話が進み、ダンテが席を立って屋敷の中へと入っていった。
残されたシンクはジェイド達のことを無視し、のんびりとお茶を飲んでいる。
気まずい沈黙が流れたが、ルークは勇気を出してシンクに声をかけた。

「その…身体はもう大丈夫なのか?」

途端、複数の非難の目がルークに向けられる。
シンクはその様子を冷めた目で見ていたが、笑みを浮かべてルークを手招いた。
そして空いている席に座るように言い、ルークは戸惑いながらも席に着く。

「僕をボコったのはあんた達だろ、何で気にするわけ?」

「その…」

「あぁ、同じレプリカだから?」

「…………それも、ある」

「ふぅん、まぁ身体の調子は良いよ。アルメフィリアが治してくれたしね」

「そっか、良かった…つか、お前ココで何してんだ?」

「別に何も?ヴァンのところに帰る気にもなれないし、ココに居て良いって言われたから居るだけだよ。僕が言うのもアレだけど、ココの家主も大概イカれてるね」

「じゃあもう敵対しなくて良いのか?」

「僕はする気はないけどね…アルメフィリアがどう出るかな?アンタ以外の奴等のこと、気に入らないみたいだったからさ」

ルークの前にカップを置き、マナーもへったくれもない手つきで紅茶を注ぐシンクの言葉にティアたちが眉根を寄せる。
それに気付いたシンクが嘲笑を浮かべながらティアたちに告げた。

「そもそもアルメフィリアは人間よりレプリカのが好きっていう変わり者だ。あんた達も、生きてココから出られるといいね?」

欠片も思っていない台詞を吐いた途端、ティアたちの身体に黒いものがまとわりつき始める。
叫び声を上げながら逃げようとしたが、黒いものはティアたちを逃がすことなくずぶずぶと飲み込んでいく。

「私の屋敷へようこそ、招かれざる客人達よ」

叫び声を上げるティアたちとは裏腹に、鈴を転がすような声が響いた。
ダンテを従えたアルメフィリアが楽しそうに笑いながらティアたちを見下ろしている。

「そんなお客人に、私からのプレゼント。とびっきりの悪夢、精々楽しみなさいな」

咄嗟に助け出そうとしたルークはうっすらと笑みを浮かべたシンクに腕を掴まれ、それも叶わない。
黒い何かに沈んでいく被験者たちを、レプリカと悪魔だけが見ていた。








2、トリル
3、フローリアン
4、ダンテ(アンダンテ)
5、フィーネ
6、シンク
7、イオン

1番目のレプリカはオリジナルイオンが殺したので居ない。
2〜5番目は悪魔が拾いました。
戻る
ALICE+