全ては彼女の掌の上で


ことの発端は、世界中に第七譜石の欠片が降り注いだことだった。
世界の破滅を歌う2000年前に詠まれた惑星預言、それらはダアトに届けられる前に多くの人間の目に晒されてしまった。

それと同時に、ダアト、マルクト、キムラスカに宣戦布告の使者が現れた。
使者としてやってきた彼等は力を振りかざすことこそしなかったものの、一目で人間ではないとわかる容姿をしていてその異様さに皆が恐れを抱いた。

第七譜石を砕いて全世界に配布し、人類に対し宣戦布告をしたのは音と快楽を司る悪魔。
音素が満ちているこの世界では、絶対無敵とも言える存在だ。

悪魔は混乱する人類をあざ笑うかのように障気があふれ出していたアクゼリュスを崩落させ、外郭大地と魔界の存在を全世界に公のものとした。
そしてパニックにパニックを重ねた人類の前で高らかな笑い声を上げ、気まぐれに凄惨な真実を暴露しては去っていく。

人類を混乱に陥れた最悪の悪魔は旧ホド跡地に己の世界を作り上げ、悠然とそこに住んでいる。
オールドラントは今、少女の姿をした一人の悪魔に翻弄されていた。

しかしこの最悪とも呼べる存在に、勇気を持って立ち向かおうとする存在が居た。
ダアトの誇る神託の盾騎士団の長、六神将である。

主席総長であるヴァンの指示の元、卓越した戦闘能力と見事な指揮能力を持って騎士団を駆使し悪魔による被害を最小限に抑えようと奔走したのだ。
後手に回ってはいるものの、民を守り預言が無くともできうる限りのことをせんと走りまわる彼等を見た人々は彼等に尊敬と感謝を覚えた。
そして今こそ人類が手を取り合うべきだと教団に促され、マルクトとキムラスカは和平を結び悪魔を倒すための連合軍を結成。



こうして、全人類は悪魔を倒すために一致団結したのである。




「後は人類が結託して悪魔を倒し、外郭大地を降下させればめでたしめでたし、ね」

歌うように紡がれた言葉の後、くすくすと楽しそうな声が響く。
積みあがる瓦礫、崩壊した家屋、生き物の気配がしないそこは旧ホド領にして悪魔の棲家。
ヴァンが海底でこつこつと作っていたレプリカ大地をそっくりそのまま使用しているのだ。
そこにぽつんと置かれた豪奢な椅子に、玉座の如く腰掛けるのは悪魔本人。

「討伐されてくれるわけ?」

「六神将相手なら負けるふりくらいはしてあげる。そういう契約だもの。悪魔は契約は守るのよ」

「契約以外は守らないの間違いだろ」

「そうとも言うわね」

傍に立っているのは、仮面を外した六神将の一人、烈風のシンク。
敵対している筈の存在がこうして話しているのを見たら、人々は騙したのかと教団を攻め立てることだろう。
しかしその心配は要らない。

ココには二人しか居ないのだから。

「でも契約にはきちんと従っているでしょう?預言に縛られた人類の解放。
私という敵が現れる事で人類は一致団結し、消滅預言を覆さんと自らの足で立ち上がっているじゃない。
ヴァンは人類を解放するには劇薬が必要だと言っていたけれど、私で充分だと思わない?」

「確かに…アンタは充分劇薬だろうね。事実今のオールドラントじゃ預言に従うことを恐れている人間の方が多い。預言に従ったら、消滅預言に一歩近づいてしまうんじゃないかってね」

「あら、ちゃんと名前で呼んでって前に言ったでしょう?シンクは私のものなんだから、言うことは聞いてくれなきゃ」

「……解ってるよ、アルメフィリア」

美しい笑みを浮かべてアルメフィリアと呼ばれた悪魔は満足そうに頷き、白いワンピースをふわりと揺らしながら立ち上がってシンクを手招く。
シンクは素直にアルメフィリアに歩み寄り、アルメフィリアの代わりに椅子へと腰掛ける。
アルメフィリアは向き合うようにしてシンクの足に腰掛け、シンクの両頬にそっと手を添えた。

「コレで私が討伐されたら、契約は完了。
私はオールドラントから消え、預言の無くなった世界には平和が訪れる。
この先二度と預言が復活しないよう教団を立て替えていくのはヴァンに任せておけばいいわ。
悪い預言を当たらないようにするための調整役となるも良し、預言が復活しないよう監視役になるも良し。そこは彼に任せておけばいい。
だから私と一緒に来てね、シンク。それが契約だもの」

「解ってるよ。預言を無くす代わりに、僕は自分を差し出す。僕が言い出したんだ。今更反故にしたりしないさ」

自嘲気味に笑うシンクに、アルメフィリアはそっと口付けた。
ほんのりと頬を赤らめるシンクが気に入ったのか、啄むようにして何度もバードキスを繰り返す。
シンクは鬱陶しそうに振り払おうとしたが、その手はあっさりと捕まれアルメフィリアの腰に回された。

「駄目、もっとキスして」

鈴を転がすような声で囁き、アルメフィリアはシンクの唇をぺろりと舐めた。
シンクはアルメフィリアの腰を引き寄せると、アルメフィリアの要望通りリップ音を立てながら口付けを繰り返す。
繰り返される口付けはやがて角度を変え、舌を絡め合わせるディープキスへと形を変えていく。
唾液が混ざり合い、口を離す頃には二人の唇を銀糸の糸が繋いでいた。

「ん…キス、うまくなったわね」

満足したらしいアルメフィリアが上唇を舐め、シンクは少しぼうっとした表情でアルメフィリアを見上げた。
その表情にまた笑みを漏らしながらアルメフィリアはシンクの唇を撫でる。

「シンクはいつもそう、私とキスするとぼぅっとしちゃう…その顔、すっごく可愛いわ」

「アルメフィリアのせいじゃないか…」

シンクの言葉にアルメフィリアは小さく笑い、そのままシンクの唇を舐めた。
音だけでなく快楽も司るアルメフィリアの唾液には催淫効果も含まれている。
最初は抗おうとするものの、こうしてキスを繰り返せば逆らう気など根こそぎ奪われてしまうのだ。

「最初は預言が無くなるならって自暴自棄気味だったけど、今はどうなの、シンク。私のものになるのは嫌?」

「今は…アルメフィリアのものになるのも、嫌じゃない」

「どうして?」

「アルメフィリアが欲しいのは被験者でもなく、七番目でもなく僕なんでしょ?」

「そうよ。私はシンクが欲しい、シンクだから欲しいと思った」

「そんな風に言ってくれるのはアルメフィリアだけなんだよ。だから、アルメフィリアのものになるなら構わないって思ってる」

アルメフィリアはシンクの答えに満足したのか白いワンピースに包まれた身体をシンクに押し付け、甘えるように頭を擦り付けた。

「なら、シンクが私を討伐してね。シンクに殺されるなんて、想像しただけでぞくぞくしちゃう」

「良いよ、何度でも貫いてあげる」

上ずった声で恍惚とする悪魔に釣られ、シンクも唇の端を上げて笑った。
そしてアルメフィリアの首に腕を回し、再度唇を重ねる。

数ヵ月後、世界を敵に回した悪魔は六神将によって討伐された。
トドメを差したのは六神将最年少にして参謀総長の烈風のシンク。
世界はこの事実に歓喜に沸いたが、英雄である少年は数日後に忽然と姿を消した。



それ以来、仮面の少年を見たものは居ない。





全ては彼女の掌の上で




10,000打フリリク第一弾。
JUNKページにある音の悪魔、シンクルートで小話か短編。
真菰様のリクエストでした。

何か享楽的な性格を目指したら変態チックなヒロインになりましたorz
でも私の中での音の悪魔はこんなイメージです。

リクエストに応えられているでしょうか。
こんなもので宜しければ受け取ってくださいませ。
そして短くてすみません。

清花
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