愛に殉ずる聖焔の話(九)


さて、ルークが帰還してからの世界の動きを端的に見てみよう。

まずアクゼリュス救援。これはルークの口ぞえがあったことと、秘預言を成就させてはならぬと言う反預言派の働きにより、ひとまず街道の使用許可と物資援助だけは議会で可決された。
和平に関してはひとまず保留である。
アクゼリュス救助が無事終わってからでも問題はないし、その前に自国のごたごたを片付けるべきだろうという意見が多かったからだ。
ヴァン・グランツを解放しようとした六神将数名がキムラスカに奇襲をかけてきたものの、これはゴールドバーク将軍率いるキムラスカ軍によって鎮圧された。
捕縛された魔弾のリグレットと黒獅子ラルゴはタルタロス襲撃犯の一人でもあるので、キムラスカで処刑せずに牢の中に入れられている。

そして起こった、アクゼリュス崩落。
導師イオンの口から外郭大地と魔界の存在を知った上層部はパニックに陥ったものの、ファブレ家を主体としてダアト・マルクトに協力を取り付け調査隊を派遣。
結果、外郭大地の存続が危ういものと知る。
ケセドニアにて和平の調印を行ったキムラスカとマルクトは二カ国合同で外郭大地降下作戦を実施することを決定。
マルクト・キムラスカ・ダアトからそれぞれ人員を集め、外郭大地降下作戦を成功させることとなる。

だが教団の未来はお世辞にも明るいものとは言えないだろう。
ヴァン・グランツ、大詠師モース、魔弾のリグレット、黒獅子ラルゴ、死神ディストと犯罪者を大量に出してしまっている。
その上ティア・グランツはキムラスカに、アニス・タトリンはマルクトにそれぞれの罪を裁くために引渡しを求められ、その損害賠償まで請求されているのだから溜まったものではない。

残っている六神将の烈風のシンクと幼獣のアリエッタに関しても、ルークに危害を加えたと言うことでキムラスカへと引き渡された。
アッシュをキムラスカで尋問した際発覚した事実だと言い、カイツール軍港襲撃犯の共犯者として名前を挙げたらあっさりと渡されたのだ。
現在二人はファブレ家に引き取られ、調教中だったりする。
アリエッタに関してはタルタロス襲撃に関わっているものの、死傷者が少なかったことと王族の命を狙ったことのほうが罪が重いということでキムラスカに引き渡された。

とまぁ世界は結構に動いているのだが、ヴァンがパッセージリングにプロテクトをかけていないので、外郭大地降下に関してはルークの出番は一つも無かった。
最も、ルークにとってもそれは願ったり叶ったりだったが。

「リグレットとディストとラルゴはマルクトで処刑が決定。師匠とティアも障気障害でボロボロだし、今回は楽だったなー」

「教団の解体ももうすぐ完了致しますし…順調で何よりですわ」

「そしたらイオンもこっちで引き取れるな」

「ふふ、ルーク様のお友達とはいえ、そこまでご執心されては少し妬けてしまいます」

「おいおい、イオンにまで嫉妬するのか?」

「嫉妬深い女はお嫌いですか?」

「いいや、凄く可愛い」

くすくすと笑みを漏らしながらルークにしなだれかかるルビア。
ルークは同じように微笑みを浮かべ、ルビアにキスの雨を降らせた。

世界が動く間、ファブレ家では何をしていたのか。
目下行われていたのは、クリムゾンによる新しい婚約者探しだった。
ルーク・フォン・ファブレはレプリカでオリジナルは当に亡くなっているという、ルークが密かに流した噂のおかげでそれなりに身分を持ち貴色を持った令嬢達はこぞってルークとの婚約を拒んだ。

極僅かにルークに対して婚約を望む家もあるにはあったが、どれもこれも家柄目当てだったり金目当てだったりするのが丸解りでクリムゾンが片っ端から断っていった。
ルークはクリムゾンが新しい婚約者探しに躍起になる間、城で仕事をしながらルビアとお茶を楽しみ交流を深めていただけだったりする。
そして最後に残ったのが、やはりというべきか何というべきか、己こそルークの隣に立つに相応しいと言い切ったルビアだった。
こうしてルビアとルークの婚約が成り、二人は晴れて結ばれる身となったというわけだ。

「ナタリアはどうしてる?たしか王女の身分を剥奪すべきって話になってたよな?」

「インゴベルト陛下に縋って皮一枚で繋がったようですが、オリジナルであるアッシュを解放すべきだと主張したために現在は自室にて謹慎を言い渡されております。
陛下は手元に残しておきたいようですが、議会では平民に戻すか、降嫁させるべきだという声が圧倒的ですわ。
完全に排除するには後一押し、といったところでしょうか」

「んー…よし!じゃあアッシュから伝言を流してやるか」

「伝言、ですか?」

「そ。プロポーズの言葉を使って伝言してやりゃナタリアなら部屋抜け出してアッシュのとこ行くだろうし、それで一騒動起こせば流石の陛下も庇えないだろ」

「アッシュを脱獄させた場合はどうなさいます?」

「うちの兵士は優秀だからな、心配はしてねぇよ」

「ではその方向で参りましょう」

「ああ。正直な話、ほっとけばそのうち失脚してくれそうな気もするけど、議会のメンバーにストレスを溜めさせるのはよくないからな」

これでもかというほどにいちゃつきながらルークとルビアは着々と計画を進めていく。
かつての仲間達も集めなければとルークは思案していたが、そのメンバーは殆ど両親が集めた反預言派の一派に収まっていたし、残りはルビアが集めていてくれていた。
ルビアはルークが動けない所を見極め、まるでルークの穴を埋めるようにして準備をしていたために今のところ滞りなくキムラスカ掌握は進んでいる。

「シンクとアリエッタはどうしてる?」

「シンクは大分教育が終わっていますわ。師団長を勤めていたといえど所詮自我が育って2年も経っていない子供ですから。
アリエッタの方はオリジナルの死を伝えて以降荒れていましたが、ようやく落ち着いてきたようです」

「今後キムラスカで役立ってくれそうだな。わざわざ引き取った甲斐があった」

「はい、必ずやルーク様のお力となるでしょう」

くすくすと微笑みながらお互いを求め合う。
ヴァンから吐かせた情報を元にフォミクリーも止めてあるので、障気が噴出すことも無いだろう。
これでその内世界が落ち着いたところでローレライから鍵を送ってもらい、ローレライを解放すればルークの名前は世界にとどろく。
ルビアと合同で出している政策による名声と、ローレライ解放という偉業があればレプリカの身であれど王に就くことはできるだろう。
前回の生とオールドラントの終焉を踏まえ、更により良いキムラスカを作っていくための下地は既に出来上がっているのだ。

「ルビィ…愛してる。またオレを支えてくれ」

「はい。このルビア、いついかなる時もルーク様のお側におりますわ」

唇を重ねたまま、ルークはルビアを抱き上げる。
そしてそのままベッドへと向かうと、シーツの海に二人でダイブした。
柔らかな肢体を貪ろうと、ルークは更に深くルビアに口付ける。

「ん…っふ、ぅ…」

「ルビィ、愛してる。誰よりも、何よりも愛してる。もう離さない。誰にも渡さない」

「私も、誰よりもお慕いしておりますわ」

ルークの首に腕を回し、ルビアは恍惚と微笑んだ。

この後、二人は前回と同じように稀代の名君とそれに寄り添う王妃として名を馳せることになる。
そして歴史はオールドラントの黄金時代を築いた国王としてルークの名を残すだろうが、そこには決して描かれない物語があった。

「ルビア…お前は、俺だけの女だ」

「他の女性に見向きなどさせませんから、ご覚悟なさいませ」

これは、歴史に紡がれなかった愛に殉じた聖焔の話。






愛に殉ずる聖焔の話







シイナ様38000キリリク、『それを愛と呼ぶならば、』で逆行&断罪。
ルークのお屋敷時代の孤軍奮闘編とイオンに対しても成長を促す感じで厳しめ在り。

はい、ということで愛に殉ずる聖焔の話、これにて終了です。
細かい設定とかも結構頂いて、書いててとても楽しかったです。
予想外に長くなってしまったのと終わり方が何か説明のみのエピローグみたいになってしまいましたが、書きたいところは詰め込みました。

お屋敷編では夢主を求めるために力を尽くしていたルークでしたが、夢主を手に入れた今後はキムラスカのために尽力してくれると思われます。
夢主の動きは作中にもあったようにルークが手を伸ばせないところを先回りしていたのですが、もっと細かい描写をしても良かったかも。

六神将に関しては指定が無かったので大人組み処刑、シンクとアリエッタはファブレに引き取り救済、アッシュは歴史の闇に沈む…という形になりました。
シンクとアリエッタはどうしても贔屓してしまいます。

あ、ガイ忘れた。
あー、多分和平の際に引き渡されたとかそんな感じでお願いします。

シイナ様、こんな感じになりましたがリクエストにお答えできたでしょうか?
なんか凄く長くて申し訳ないですが、これで完了という形を取らせていただきます。
リクエストありがとうございました!


清花


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