Reflection




自分の運命をから回せてしまった。









私がここ秦に訪れて7年の月日が過ぎていた。オヤジ臭い文官の中に紛れ女ながらに上手くやってきたつもりだ。


周りからも信頼を持たれ、
それなりの地位にも着いた。





そして、念願の秦国右丞相であり軍総司令の昌平君と関われる様にもなった。




気づくと昌平君直々に意見も求められる様になり、会話をすることがおおくもなった。





そして、いつの間にか
恋に落てしまった。





でもそれはしてはいけない想い。




だから蓋をし続けた。自分にそうではない。勘違いだと言い続けた。


でもそのせいで溢れ出てしまった。





「総司令……私は……ッ…」


そう言って塞がれた唇。


「言葉にするな」



再び合わせたソレはどちらからともなく求め合う様に。



私達二人はお互いの気持ちを
寝台の上でたしかめあった。




どちらともなく合わさる手

彼の呼吸を聞くだけでも溺れていき


お互いが離れていかないように

何度も何度も、
唇を合わせた。









この上ない喜びを感じた。
心の中で罪悪感が渦を巻きながら



だから抱かれる前に決めた。


これは私にとって麻薬でしかない。

一瞬の幸せと引き換えの地獄への道のり。


















あれからどれくらいの時間がたったのだろう…………意識が混濁している。


目を開けると暗闇の中に1つの蝋燭の光。


カビの匂いと血生臭さが混じる
ここが地下にある拷問室だった事を思い出す。



両腕を鎖に繋げられ膝が付く高さまで腕を吊るされ、


何も着てない

両足は痛さで動かすのも怖いがきっとすでに機能しない。



体の全てが残り僅かだと教えてくれる。






「で?言う気になった?」

力なく下がった頭を、髪を引っ張られる事で無理やり上を向かされる。


「…………ッ」


「………三日三晩、何人の男にヤられたの?何回殴られたの?剥がされた爪は?折られた足の痛みはどんなだった?」


薄く笑いながらこの状況を楽しんでいる男が目の前にいて、せっかく一瞬でも忘れていた事を痛みと苦しさと共に思い出させる。

私は眉間に皺を寄せた。



「言えば、もう何もしないよ?ソレ解放してあげられる。


…………それで?何処の国の誰に雇われてきたの?」




耳元に寄せられたその声は、悪魔のささやき。


「……だから。私はどのくにの




ボゴッ!!!



言葉を遮る様に、頬を殴られる。




「………そう。


あれ持ってきて」




表情を無くした目の前の男は後ろに立つ男に呼び掛ける。


私はその言葉にまだまだ悪夢が続く事を悟り目を強くつむった。





そう。私は趙から李牧様に潜入する様言われて秦にやってきていた。

長く接する機会が増えてしまった為かいつの間にか昌平君の人柄に惚れて、それは一人の男性としての魅力に変わり…いつの間にか尊敬していた李牧様を上回ってしまっていた。



それでも仕事は確実にこなしていた。
本来の目的は果たしていた……と思う。






でも結果疑われた。



自分で自分の首を締めてしまった。




なぜ気づかれたのか。


いや。私は頭の何処かで分かっていた。李牧様を裏切ったツケがきたのだと………………





意識が無くなるまで何人もの男に犯され。

口を紡ぐ私へ容赦のない暴力。


次に意識が戻った頃には拷問具が広がる部屋にいて…………

もう、泣く力も痛みで叫ぶ力もない。














「何か吐いたか?」

「!!!」
「う、右丞相!」




重い扉が開けられた瞬間に外気の風と共に昌平君が現れた。私はその声にゆっくりと重い瞼を上げた。




「いえ。この女…何もはきません」



ゆっくり近づいてきた彼は、目の前までたどり着くと私と同じ高さに屈み込み目線を合わせた。





「晋」



「………………」





分かってる。
貴方を愛していても、裏切る事はできない






「……………………そうか。



残念だ。」








「殺せ」



私はその言葉と共に瞳を閉じた。







痛みは一瞬。
私は苦しみから解放された。






それは彼なりの計らいだったのかもしれない。














Reflection












「李牧様ッッ!!!」





バンッと勢いよく開け放たれた扉には、酷く焦った様子のカイネが息を切らし立っていた。


「どうしましたか?」


部屋の中で書簡を読んでいた李牧は、その慌てた様子のカイネに動じずいつもの調子で顔を上げた。



「晋が……あの、晋が……ッッ」
「逝きましたか」

「!」


カイネは一瞬思考が停止した。この方は何を話しているのだと。だが、それも以降書簡から顔すら上げず眉ひとつ動かさない李牧に長く近くにいるカイネは悟った。
あぁ、この方が命をくだしたのか。と……



行き場の無い感情を拳を強く握る事と、奥歯を噛みしめる事で、幾分にも和らげ涙は流すまいと決める。



私は姉の様に慕い続けていた。

だが、李牧様は彼女とそれ以上のご関係だった事は誰もが周知の事実。




これも。"国を纏める者"の務め…









そう。これは一生語り継がれない女の話。



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