雷平原




雷平原へ入る前、雷が苦手なリュックの説得に苦労したけれど。雷平原避雷塔いくつ目かを通過した頃。避雷塔の真下に、シェリンダがいた。

「あ。お疲れ様です!シーモア老師とユウナ様が、ご結婚なさると聞きました。素敵なお話しですよねえ。早くみんなに知らせたいです!」

ネガティブ僧の発言に、目を真ん丸くしたのは、当事者ユウナ一行。

「誰から……聞いた?」

ティーダがまさか、という顔で尋ねた。

「グアド族からですよ?みんな、とっても嬉しそうでした」

なんて勝手な……。

「それちょっと違うな。ユウナは断るつもりだから」
「えっ!本当ですか!」
「うん、結婚はナシ」
「そうなんですか……ガッカリしました」

そんな言い方したら、民が喜んでくれるならって、少しでも明るい気持ちになれる役に立てたら、て人のために結婚するとか言い出しかねないよ……!

「スピラ中が喜びと祝福に沸きかえったでしょうに……」

あ……もう私怒っちゃいそう……。その後すぐにシェリンダとは別れて、比較的大きい避雷塔のそばを通り過ぎたときだった。ひときわ激しい雷が落ちた。

「ひゃぁ〜……大きな音……」
「お〜!近い近い!うははははは〜!!」
「さっさと行くわよ」
「へいへい……」

喜ぶワッカに、ルー姉様が冷たく一刀両断した。ワッカとルールーっておしどり夫婦みたいだなあ、なんて思って少しほほえましかった。その時。

「へへへへ……」

リュック……?いつの間にか最後尾になっていたリュックを振り返るパーティ。

「へへへへ……」

ちょ……リュックさん……大丈夫ですか……?

「へへへへ……ってなんだよ、気持ち悪いな」

つっこむティーダ。その時、側の避雷塔に大きな雷落ちる。

「いぃやぁぁぁ〜〜っ!?」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」

がさっ

「「「「「「「!?」」」」」」」

がささささささ!って、何その動き!ま、まるで……っ!!物凄い動きのリュックは、ティーダの足元で止まった。

「やーだ〜!もうやだ〜!雷やーだ〜!!」

雷?!

「そこで休んでこ!ね?ね!」

リュックの必死の説得。どうするのか隣のアーロンを見上げる。

「ここの雷は止むことがない。急いで抜けた方がいい」

遠くを眺めると、むしろ激しくなってる気さえする。

「知ってるけどさ〜!理屈じゃないんだよ〜!」
「はは……だってさ」

リュックに足に絡まれて身動きできないティーダが、皆を見渡した。ため息をつくアーロン。皆でリュックが指差した旅行公司を見やった。一先ず旅行公司の建物へ向かう。が、通り過ぎる。笑

「たっ!頼むよ〜!休んでこうよ〜!」

……アッサリ通り過ぎた私達に、案の定慌てるリュック。が、構わず先を行く。(ニヤリ

「雷はダメなんだよ〜!休もうよ、ね?おねがい!」

が、構わず先を行く。(ニヤリ

「こんなにヤだって言ってるのにさあ……」

が、構わず先を行く。(ニヤリ

「ヒドイ……ヒドイよ……血も涙もナイよ……」

あらら……ちょっとやり過ぎたかしら。リュックには見えないよう、口をできるだけ動かさないでアーロンに話しかける。

「ちょっと可哀想だね。少し休んであげよう?」
「……」

が、構わず先を行くアーロンに、一先ず着いて行く一同。

「もしかして、楽しんでるう?」

バレた(笑)。アーロンと目を見交わし、戻る。笑

「リュック。少し休もう」
「ヤッタ〜!」

私がそう言うと、飛び跳ねる勢いで……いや、リュックの場合本当に飛び跳ねてたけど、大喜びのリュックが一番に旅行公司の中へ入った。

「少し……疲れました。お部屋はありますか?」

さっさと客室へ行ってしまったユウナに、困惑する一同。

「お、おい、ユウナ……?」
「らしくないわね」
「ユウナ……」

ワッカとルールーと頭をかしげながら、客室へと消えて行ったユウナの後姿を見送るしかできなかった。

「……召喚士が若い娘だと、ガードするのも大変だな」

ユウナが出て来くまで待って、一行は出発する。相変わらず雨の降る外へ出ると、1度どこかで見た気がする青年が、ユウナの写真を正面から撮ると、去って行った。

「何だったの……?」

隠し撮りというか正面から写真を撮って行った青年の後姿を見送りながら呟くと、隣のアーロンは頭を振った。召喚士って写真撮られるのが普通なの……?フライデーみたいな?

「まるで芸能人みたいだね……」
「何言ってるッスか。茉凛こそ女優かモデルっぽいッスよ!」
「口説くなバカ者」

アーロンとティーダにプチバトルが勃発した……。

「ん?芸能人ってなんだ?」

聞こえたらしいワッカに尋ねられて、ティーダと説明に困った。

「スピラって芸能人とか居ないよね。召喚士やブリッツ選手がポジション近い感じなのかな……」
「どうなんスかね……」

雷平原終点間近。ユウナが足を止めた。

「みんな……いいかな」

ついに、ユウナが言う気になってくれたみたい。こんなにユウナを悩ますことだもん、嫌な予感しかしない。

「聞いてほしいことがあるの」
「ここで?」
「もーすぐ終点でしょ?さくさく行っちゃおーよ!」

ユウナの申し出に、ルールーとリュックが言った。

「今話したいの!」

どうしちゃったと言うんだろうあのユウナが……隣のアーロンを見上げると、アーロンは小さく溜息をついた。

「あそこで聞こう」

そうアーロンが示したのは、屋根付きの休憩所だった。

「……………」

重い雰囲気。この雷平原を覆う空よりも暗い気分。屋根付きの休憩所で、皆がユウナの言葉を待った。そして、ユウナが意を決するように、口を開いた。

「……私、結婚する」

私は愕然とした。

「な、どうしてだ……?気ぃ、変わったのか?」

軽く慌てるワッカ。そりゃそうだよね。

「スピラのために……エボンのために……」

聞きながら私は目が見開くのがわかった。ユウナ……17歳だったよね?いや、私より年上だけど、でも1歳しか変わらない。それなのに、そんな壮大なこと、私が居た世界で考える同世代は居ない……このスピラの特殊な環境が、早く大人にさせるの?ううん、それもあるけど。ユウナだから。召喚士という重責が、こんなに大人びた17歳を育てるのかな。ユウナ、すごいなあ。でも、逆に可哀想。年相応に楽しむ時間も、この、スピラには、無いんだ。

「そうするのが、一番いいと思いました」
「説明になっていない」

手厳しくアーロンが言った。

「もしかして……ジスカル様の事が関係してるの?」

ルールーの言葉にハッとした。そっか、ユウナの様子がおかしくなったの、それからだったんだ。ジスカル様の息子は、シーモアだ……。

「あ!あのスフィア!」

隣のアーロンがティーダの言葉に、それだ!と思ったのか、ズイッとユウナに進み出た。

「見せろ」
「……できません」

やっぱりソレなんだ……。ユウナ、どうして頼ってくれないの……?見せたがらないものだからこそ、ガードの私達はユウナの力になりたいんだけどなあ……でも言えない。私は、アーロンが連れて行くと言ってくれたおかげでここに居られる立場。意見なんてできない。

「まず、シーモア老師と話さねばなりません」

でも、待ってよユウナ。私たち、何もわからないよ……。

「本当に、申し訳ないのですが、これは……………個人的な問題です!」

ユウナは、どうしてそうなの?甘ちゃんも困るけど、ユウナは、もっと周りに頼っていいくらいだよ……

「水くせえなあ」

ワッカの言う通りだよ……

「……好きにしろ」

ふいっとユウナから顔をそむけたアーロンを、私はちょっと慌てて見た。でも私の頭の中では、さっき寄った旅行公司で、ティーダに「召喚士が若い娘だとガードするのも苦労するな」て言ってたのを思い出した。

「すみません……」

謝罪の言葉を口にして俯くユウナのことを、責めたり、怒ったりなんて、そんな気持ちとは違う。なんて言うか、上手く言えないけど、うん。悲しい。出会ったばかりの私には無理だろうけど、でもワッカとかルールーとかキマリんとか、昔馴染みには、もっと頼っていいんじゃないのかなあ、ねえユウナ……

「だが今一度聞く、」
「旅は止めません」
「ならば……良かろう」
「……」

結婚もして、旅もするの?ユウナ……重責すぎる。やっぱり、もっとみんなに頼ってほしいよ……!

「ちょっと待てよアーロン。旅さえしていれば、あとはどうでもいいのかよ!」

やっぱりティーダは反対した。

「……その通りだ」

アーロンの返答に、私は俯いていた目を無意識に驚きで見開かれた。でも、と即座に思う。アーロンは、ユウナのガードに目的があってなった。でも、それは父ブラスカとの約束のためと言ってた……あぁ分からない。

「 “シン” と戦う覚悟さえ捨てなければ、何をしようと召喚士の自由だ。それは召喚士の権利だ。覚悟と引き換えのな」

ルールーとワッカを見ると、二人とも頷いてた。召喚士の覚悟。その覚悟って、そんなに大きな割合を占めるほどのスケールの、覚悟。それほどの覚悟って一体何なのだろう……こわくなってきた。

「でも、なんか……」

渋るティーダ。でも私は、既に納得しかけてる。皆がこう言うんだから、と思った。郷に入れば、郷に従うべきだ。私もティーダも、所詮部外者なのだから、それは単なる自分の価値観の押し付けにしかならないと思う。

「ユウナ。いっこだけ、質問、いいか?」

ワッカがユウナに背を屈めて尋ねた。

「シーモア老師と、話すだけじゃ、ダメなのか?」

話す、だけ……?

「……」

なんだろう。この違和感。答えにたどりつけそう。でも、ああダメ。パズルが足りないんだ……。

「結婚しないと、マズイってか?」

待って……話すだけじゃダメで結婚しないとダメ。ジスカルのスフィア……。パズルが一つ見つかった。なのに答えが引き出せない。

「わからない……でも、覚悟は必要なんだと思う」

覚悟……?結婚しなきゃいけない覚悟?シーモアと話さなきゃいけない。結婚するつもりで話さないといけない。ジスカルのスフィア。ジスカルのスフィアの内容は……?みんなの発言を頼りに謎解きしようとしたけどわからない……

「そ、そうか……」

ワッカが黙り込むと、我慢してたの!という感じでリュックが前へ出た。

「ユウナ……覚悟ばっかりさせて、ごめんね?」
「いいの……大丈夫」

分からない……。

「…………」

外から来た私には、価値観が違うんだろう。考えたところで、スピラ歴も一番浅いのに、答えなんて導き出せないのかもしれない。郷に従うしかない。

「ともあれ、一先ずはマカラーニャ寺院を目指す。ユウナはシーモアと会い、好きに話し合えば良い。俺達ガードは、その結論を待ち、以降の旅の計画を考える。いいな」

アーロンの言葉で、私達は屋根の下から出て旅が再開した。