作戦司令部通行許可
「気を抜くなよ」
アーロンが言った直後の一本目の橋に差し掛かったとき、さっそく魔物がお出ましになった。それも皆で軽く一蹴。
「やっぱりチョコボ乗りてぇ〜!」
バトル終了時、ワッカが叫んだ。あ、成長のために徒歩にしたこと納得してなかったんだ……。なんやかんやで、私たちはバトルをこなして行った。一行が間もなく終点に差しかかったその時。
「なんか塞がれてない?」
「あ!俺さっき旅行公司出る前に店に居た客から聞いたッス!討伐隊が通行止めにしてるらしいッス」
「え〜どうして?」
するとそこへ。
「何度も言わせないでちょうだい!わたしはね、召喚士なのよ!」
あの人も召喚士なのかな。女性と、男性二人組だった。
「申し訳ありませんが!どうかご理解ください!」
聞こえて来た会話に、私は苦笑いを浮かべる。
「召喚士でも通れないみたいだね……」
そばにいたルールーが頭をふりふり、困り顔でため息をついた。
「ドナさん…」
声に振り返ると、ユウナの表情が曇っていた。
「知り合いなの?」
「うん……前の寺院で……」
「ふぅん……?」
ユウナの様子から、なんとなくドナって召喚士がユウナ達にどんな感じだったのか想像できた。
「今聞いてきたけど、この先のキノコ岩街道で、討伐隊が作戦を決行するみたいね」
「あ〜ミヘン街道でシェリンダが言ってたあの……」
ルールーの言葉に、暫し足止めを強いられてしまうのだろうか……と沈んだ気持ちになる。仕方なく、塞がれた門から来た道へ戻る時だった。新道から、誰か来る。誰だっけ。斜め前に居たユウナが、突然立ち止まった。どうしたのかと、私も立ち止まる。すると、新道から来た人はユウナの前で止まった。そこで思い出した。ルカのスタジアムで、強いけど不気味な魔物を使役してた青髪の人だった。
「!…」
その人は、なぜか私とユウナを見比べるように交互に視線を受けた。
「どうかしましたか。お困りのようですが」
「実は……」
ユウナが通行止めされた門をチラと振り返る。
「なるほど」
そう言って、青い人は門の人の元へ行って何やら話すと、どうやったのか、通行許可が下りたみたいだった。
「ありがとうございます!」
深々とお辞儀するユウナ。去って行く青い人の後ろ姿に、さらにもう一度お辞儀するユウナ。私は、なんとなく。隣に居るアーロンを見上げた。アーロンは私の視線に気が付くと、頭をふりふり、行こう、とアイコンタクトをするだけにとどまった。
「エッラソーなやつ……」
青髪の口利きで通行許可が下りたゲートをくぐるユウナ一行の最後尾で、ティーダが不満そうな声を上げるのが聞こえた。
「シーモア=グアド老師。ご来臨!」
討伐隊の人の声と共に青髪の人ことシーモアが、討伐隊へ演説を始めた。
「どういうことだ、アレ?」
怪訝そうな声を上げるワッカ。
「どうしてシーモア老師は討伐隊を応援するんだ?アルベド族の機械を使う作戦だぞ?教えに反する作戦だぞ?」
「教えに背いてはいるけど、みんなの気持ちは本当だと思うな。シーモア様も、そう思っていらっしゃるんだよ、きっと」
「おい、ルー!」
ユウナの言葉に納得行かないワッカがルールーに助けを求めた。
「……ただの視察じゃない?」
やっぱり不穏な雰囲気だ。
「なあ、今のどういうことかわかったか?」
ルールーとかアーロンとかスピラの人に聞けばいいのに、ティーダがなぜか私に聞いて来た。
「寺院の意向に背いた作戦だから寺院破門された討伐隊。シーモア……老師?はこの世界で絶対である寺院側の人間。その寺院のシーモア老師が討伐隊を鼓舞した……。ま、おかしいよね」
「は〜そゆこと」
おっとととt。今の説明でわかってもらえて良かったよティーダ。私は説明が得意なほうではないので。だよね?と隣のアーロンに確認すると、アーロンはシーモア老師のほうを顎でくいと見やった。
「本人に聞くんだな」
「ぁ、」
シーモア老師がこちらへ歩いてきていた。ユウナの元へ向かっているのかと思ったシーモア老師はあろうことか、ユウナの左側、アーロンの右隣に居る私に顔を向けた。なんか…嫌な感じ……。じっと顔を見られた。居心地が悪いったらない。そして、頭のてっぺんから足のつまさきまで全身を眺められる。
「っ」
思わずアーロンの背後に隠れる。アーロンの袖を掴んで、ひたすら俯く。するとシーモア老師は、アーロンに話しかけ始めた。
「やはりアーロン殿でしたか。お会いできて光栄です。ぜひ、お話しを聞かせてください。この10年のことなど」
「俺はユウナのガードだ。そんな時間はない」
そう言ってアーロンは、右袖にくっついた私も忘れずに連れて、シーモアから離れた。か、感謝。でもそれより、シーモア老師が、10年、という単語を出したときの、アーロンが一瞬動揺したような、微弱に感じた感情の動きを、私は気になって仕方がなかった。聞かないけど。
ようやく旅の再開。どうやら作戦決行のため、キノコ岩街道へ、迂回するしかないらしい。
「キノコ岩街道って、ミヘン街道と違って、魔物も強くなってるの?やっぱり」
「正解。でも私たちは成長しているはず。そのためにチョコボに乗りたがったワッカを無s……説得して徒歩で来たのだし」
無視したんだ……。
「よーし!行くッス!」
いつもの元気な声のティーダの掛け声に、全員で装備を整えてキノコ岩街道へと足を踏み入れるのだった。