ハグにはストレス減効果がある
「ただいま戻りました」
あの後、無事マヨネーズを購入して屯所に戻った。土方さんの部屋は、さきほどと違って障子が閉まっていた。縁側の障子の前で膝をついてしゃがみ、声をかける。
「土方さん。マヨネーズお持ちどうさまです」
「おう入れ」
了承を得てから、ス、と障子を開く。立ち上がって部屋に入り、またしゃがみ、障子をしめる。
……ふふふ。高級料亭でのバイト経験で、このくらいお手の物。
「悪いな。そこに置いておいてくれ」
「はい。……タバコは買うことができず、すみません」
「いや、気にするな」
書類に向かい、片手には筆を持っている土方さん。忙しそうだけど、手短に要件を言おう。
「かわりと言いますか、たくあんを買って来ました」
「たくあん?」
「はい。土方さん、お好きかなと思いまして」
良かったらお持ちしましょうか?と、振り向いた土方さんに、袋に入ったたくあんを持ち上げて見せる。
史実では、新選組副長土方さんは、たくあんが好物だから。でも銀魂の真選組副長土方さんは、たくあんのかわりに、マヨネーズが好きなのかな。
じ、と土方さんを見ていると、土方さんはふ、と微笑んで筆を置いた。
「小夜は気が利くな」
頭をなでられた。なんだかうれしくなって、笑みがこぼれる。良かった、喜んでもらえたのなら。
「……」
優しくなでてくれる土方さんを見やると、やわらかい笑みを浮かべた。すると、するりと土方さんの手が下りて、私の頬を撫でた。あたたかい大きな男の人の手……心地が良い。
「……」
「―――…」
優しく引き寄せられたと思ったら、抱きしめられた。驚いて、土方さんの胸に手を当てると、
「悪い……少しだけ、このまま」
ぎゅ、と私を抱きしめる土方さんの腕に、力がこもる。背中にまわされた手の温度が着物越しに伝わって、あたたかい。
「……」
そうして暫くして、土方さんは優しく腕を離した。
「もうひと頑張りするわ。悪いが、たくあん持ってきてくれるか?」
「はい」
土方さんは、文机に向かった。私は立ち上がると、たくあんを持ってそっと部屋を後にした。
「夕餉準備中に、すみません。副長が、たくあんをご所望です」
お台所へ行き、たくあんを見せると、すぐに先ほどの年配の女性が「はいはい」と来てくれて、たくあんを切ってくれた。
「これで良いかしらね」
「ありがとうございます」
私は頭をさげて、切ってもらった二切れのたくあんが乗った小皿を持って、土方さんの部屋へ戻った。
「土方さん。お持ちしました」
「入れ」
さきほどの動作で、土方さんの部屋に入る。土方さんは、書類にとても集中されているようだ。
「置いておきますね」
「ああ」
失礼します、と言って静かに土方さんの部屋をあとにする。
私はまっすぐ部屋に戻って障子をしめると、静かに座り込んだ。
び、びっくりした……!
「……まだドキドキしてる」
今日何度目かの、胸に手を当て深呼吸をした。