最初から居ました


「おお。来たかー。1年」

短髪に、長身で、目つきが良いとはお世辞にも言えない。彼がキャプテンの日向先輩だ。
入学式から数日後。部活動の見学期間が終わり、今日から入部申請が開始される。
僕はすいれんさんと、放課後になると連れ立って体育館に来たのだった。

「結構来てくれたな〜」

僕らは1年の集団の中で一番後方にいた。

「女子がいる!」
「マネ希望か?」

キャプテンらしき人の声で、サラサラな黒髪の先輩が、ドリブルしていた手を止めてこちらを見た。すいれんさんのことらしい。

「しかもカワイイ!」
「可愛い子と川行こっと!」
「伊月黙れ」

猫口がチャームポイントの先輩、サラサラ黒髪な先輩、目つきの悪い先輩。
……サラサラな先輩はダジャレ好きなのだろう。イケメンなのに……。

「よーしお前ら。いきなりだが入部テストするぞー。順番に並べ」

日向と呼ばれていた先輩が言って、僕はすいれんさんを連れて最後尾に並ぶ。
先輩の中で唯一女子生徒が前へ出てきて、順番に1年生を見始めた。
途中、ビッグな新入生、同じクラスの火神くんが、みんなを沸かせていた。僕も実は注目している。
やがて、すいれんさんの前まで来た。

「お待たせ!唯一の女子ね!マネ希望?」
「はい。未経験ですが、黒子くんに誘われて。入部できますか?」
「問題ないわ!一から教えてあげるからね!ようこそ、我がバスケ部へ!」

いきなり合格通知。女子生徒の先輩の言葉に、すいれんさんは僕を振り返ってうれしそうに微笑んだ。すいれんさんはいちいち僕にリアクションしてくれる。カワイイ。

「ところで、黒子くんって?」

既に見終わった1年生集団を振り返る女子の先輩。僕は口を開いた。

「黒子は僕です」
「えっ。って、きゃああああああああ!!」

そんなに驚かなくても……。まあ、存在に気づかれないのはいつものことですが。でもいつでも僕に気が付いてくれるすいれんさんといるためか、気付かれないことを忘れていた。

「うわ!いつからいた!」
「最初からいました」

キャプテンらしき日向先輩続き、先輩達が集まってきた。

「黒子くんって!!帝光中って、書いてたあの!?君が!?」

なかなかに失礼ですね……僕は顔に出さず思った。そしてなんやかんやですいれんさんの目の前で僕は服を脱がされて、入部テストは終わった……。

「それじゃ!あなたたちの入部を認めます!明日には申請書提出しておいてね!そうそう、私はカントクの相田リコよ!部員からは、カントクと呼ばれてるわ!」

監督だったとは……。カントクの話は続く。

「見ての通り、うちの部員は少ないわ!でも目指すは、」

カントクが意味ありげにそこで言葉を切った。一同はカントクに視線が集中する。

「全国!!」
「全国…!」

ザワつく1年生。すいれんさんの顔つきも変わった。すると、カントクがすいれんさんを見た。

「だから、マネージャーにもそれなりの仕事があるわよ!よく見ていてね?」
「はい、よろしくお願いします!」

大真面目にハキハキと答えているすいれんさんの様子に、僕の頬は思わずほころぶ。

「それじゃ、さっそく練習始めよう!1年生はまだ仮入部ってことになるけど、参加してね!その前に、2年生を紹介するわ!」
「あ〜、日向順平だ。ポジションはSG。キャプテンだ。聞いた通り全国目指すからには厳しく行くんでそのつもりで。よろしく」
「伊月俊だ。PGだ。バスケ歴は小学校の時から。よろしく」

イケメンだ……。今回はダジャレは言わないらしい。

「小金井慎二!バスケは高校に入ってからだ。ポジションは、Fかな。よろしく!」
「土田聡史。ポジションはPF。よろしく」
「……………」
「水戸部凛之助。ポジションはC。怪我しないようがんばろうね」

……!?小金井先輩が代弁していた。

「さ。練習よ!」
「おー始めるぞ〜」

カントクと、キャプテンの指示で、2年生はそれぞれ配置につくのだった。僕は参加しながら、意気揚々と話すカントクのそばに着いてコクコクと真剣に話を聞くすいれんさんの姿に、口元を弧にするのだった。



***



「練習すごかったね……」

帰り道。そう微笑むすいれんさんの顔は≪やってやる≫という顔で、僕は安心した。

「一緒にがんばりましょう」
「うん!入部届け、一緒に出しに行こうね!」

頭一つ分下にあるすいれんさんの横顔を眺めつつ、僕は最高の高校生活になる予感がした。