同じように、なんて無理だ


去年できたばかりの新設校、私立誠凛高等学校。
オレ達は、去年入学した。いわば1期生。そんなオレ達が立ち上げた、男子バスケ部。
オレ達が2年になって入部してきた新入生に、彼女は居た。

「すいれんさん。僕も手伝います」
「ありがとう。黒子くん」

練習終了後。体育館の床にモップをかけ終わった黒子が、うちのマネージャーこと、白河すいれんのスポドリ作りを手伝いだした。
彼女は、黒子と同じクラスらしい。

「………」

仲良さげな二人を目の当たりにする度モヤモヤする。黒子が彼女を連れてきたのだから二人が仲良しなのは仕方ない。仕方ないけど。

「あっすいれん!オレも手伝うわ」
「オレもー!」

黒子が彼女に近づいたところで間髪いれず、名乗りを上げる火神とコガ。

「おい、おまえら!他にスコアボードしまったり、することあんだろ、ダァホ!!」

そんな野郎どもに、主将である日向のツッコミが入った。そう、彼女はなかなかの人気ぶりなのだ。他校にも彼女を気に入ってるヤツは大勢いる。
例えばキセキの世代。キセキじゃなくても秀徳の高尾とか。1年以外にも、海常のキャプテンとか、陽泉の帰国子女とか、無冠の五将とか、とか・・・・・。
とにかく、彼女を自分の彼女にしようと思ったら相当な競争率なわけだ。

「え?伊月どした?なんの捻りもないよ?」
「!?」

声に出ていたか!?
日向に連れ戻されたコガが、いつの間にか側に居た。というか今のは別にダジャレを言ったわけでは・・・って「捻りが無いのはいつもか」じゃないぞ、コガ。
ダジャレのおもしろさがわからないとはそれはもう、ってそんなことよりすいれんだ。まったく、片思いは辛い。・・・ん?
片思いで肩重い!!KI・TA・KO・RE☆メモメモってる場合じゃないな。ネタ帳出したの見られてたらしい。日向の視線が刺さる。

「みんなー終わったー?お待たせー!」

顧問のとこまで行ってたカントクが戻ってきて、ほどなく解散となった。

「伊月先輩」

着替えるため部室へ戻ろうとしたところへ、後ろからの可愛い声に振り返る。珍しくすいれんから声をかけてきた。

「あの、今日、一緒に帰れますか・・・?」

遠慮がちにそう言ってくるのが可愛らしい。もちろん!と即答しかけた。でも、と止まる。同じ方角でいつも送ってる黒子はどうしたのか、などと尋ねたりはしない。まあ黒子は帰れなくなったからすいれんはオレのとこに来た。まあそんなとこだろう。でもまあ、他にも声をかけようと思えばいるのに、オレを選んでくれた事で良しとする。

「ああ、いいよ」

優しく対応する。ニコりと微笑んで見せると、すいれんは嬉しそうにパアアッと顔を輝かせた。可愛いな。

「すぐ着替えてくるから、待っててくれるか?」
「はい!」

コクッと笑顔で頷くすいれんを見て、オレもニコッと笑顔を返し、部室へ向かうべく背中を向ける。が1つ思って再びすいれんを振り返る。

「部室の前まで来なよ」
「えっ」

ちょっと躊躇うすいれんが可愛いくて、クスリと笑みがこぼれる。

「校門じゃなんだし、だからと言って体育館の外もなんだろ?それにもう体育館は電気消すし」
「・・・はい!」

ニッコリ笑ったすいれんの笑顔は、半分既に電気を消されて薄暗い体育館なのに、オレには眩しく見えた。

「おまたせ」

待ってるすいれんのために光の速さで着替えて急いで部室を出た。すると、日向たちも直ぐに出てきた。

「おー、白河」
「日向先輩、お疲れ様です」
「お疲れー。今日白河送るの伊月か?」

日向はきょろきょろした。いつもすいれんを送る黒子の姿を探しているようだ。

「えー!ちょ、なんで伊月なの?すいれんちゃん!?オレでもいいんだよ〜!?なぁ水戸部」

なぜそこで水戸部にふるコガ。

「コガ方向逆じゃん。ま、じゃオレら帰るわ。お疲れー」

そう言って、オレはすいれんを連れて校門を出る。後ろから「すいれんちゃん次はオレが送るからねー!」と叫ぶ近所迷惑なコガの大声が追いかけてきたが、手を振って応えるだけにとどめた。

「それじゃ、帰ろうか」

すいれんに向き直る。

「伊月先輩。ありがとうございます、一緒に帰ってくれて」
「大丈夫だよ。すいれんちゃんが言わなかったら俺から言ってただろうし」

なーんちゃって。今オレ押したの気が付いたかすいれん?
しかしというかやはりというか。すいれんは安心したようにニコリと微笑んだ。その笑顔を自分だけのものにできたらどれほど良いか。
二人並んで歩きだす。
実は、すいれんと帰る方向が同じなのは黒子以外にも居る。秀徳の高尾だ。鷲の目の上を行く鷹の目の高尾。高尾と言えば、学年こそ違うものの、ポジションまでオレと同じなのだ。そしてその高尾はすいれんと同い年、家の方向も同じ、そしてなにより、すいれんを気に入っている。
危険だ。
それにすいれん自身も高尾に気を許しているように見える。その高尾が誠凛まですいれんを迎えに来て、家まで送ることが以前あった。だからもう二度と、黙って見ている訳には行かない。
その以前とは1度だけで、高尾が誠凛まですいれんを迎えに来たことがあったのだ。その日はなぜ黒子が帰れなかったのかなんて理由知らない。
1年は1年同士で、すいれんと一緒に帰るヤツを順番に回してると踏んでる。てかたぶんそう。最早そうとしか思えない。

「すいれんちゃん」
「はい、伊月先輩」

人懐っこい笑顔で小首を傾げてくる彼女。…そういうあざとい仕草も素でやっちゃうのがすいれんという子。

「帰りが1人の時はさ」
「はい」
「オレに言えよ」

駅へ向かうすいれんの足が突然立ち止まった。見ると、微笑を浮かべていたすいれんの表情も少し驚いたような表情となっていた。

「・・・いいんですか?」
「ああ。他の奴に誠凛まで来てもらわなくて良い。オレが送ってやるから」
「伊月先輩・・・・・」

ありがとうございます、と言ったすいれんから、ぺこっと聞こえてきそうな程深々とお辞儀して、顔を上げた彼女の頬は朱に染まり、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。まずまずの反応に、自惚れの気持ちがわいてくる。
もう行っていいか?いつ誰に取られるんじゃないかとヒヤヒヤするのは、もう嫌なんだ。

「――「良かったです」
「え?」

先にすいれんのほうが口を開いた。

「伊月先輩、優しいのに、なんだか私には、壁を作られてるのかと思ってましたから」
「・・・・・そう見えた?」
「はい」

苦笑交じりの顔をするすいれん。

「部員たちのように、は無理かもしれませんが。伊月先輩がみなさんへ接するように、私にも接してほしいです」

予想外な言葉に、オレは思わず思ったことが声に出していた。

「それは無理だ・・・」
「え」

オレの真意が分からなそうで、オレをじ、っと見つめるすいれん。きょとん顔もカワイイな。

「すいれんをあいつらと同じように、なんて無理だ。それに、この際言わせてもらうが。オレはすいれんには、誰かの彼女にもなってほしくない」

よし、このまま言え。

「ずっと好きだった。彼女になってほしい」

頭一つ分以上下にあるすいれんを見やる。届け。俺の想い。

「・・・嬉しいです。伊月先輩」

すいれんの目は潤んでいた。

「私も、ずっと。伊月先輩のこと、」

気が付いたら彼女の唇をふさいでいた。

「伊、月・・・先ぱ・・・」

唇を解放した時には、すいれんの頬は紅潮しオレに釘付けだった。

「好きだ」

ぎゅ、と抱きしめたすいれんの体は想像以上に華奢で。細い腰なんて、力を入れたら折れてしまいそう。

「私も・・・好き。です。伊月先輩」

喜びをかみしめながら、すいれんをこの腕いっぱいに抱きしめた。