大丈夫?より嬉しいのは


数年来のタイガとの決着の試合で、オレは負けた。ウィンターカップも、ここで敗退。
タイガとは変わらない関係が続けられるのは良かったけれど、試合に負けたのはやっぱり悔しい……

「氷室くん……」

オレの心情に寄り添うように、控え目な声が隣からかけられる。心配げな声でも聞き心地の良い声質だ。でもごめんね。今は試合に負けたことが心に重くのしかかって、今は優しく接することができない。
何かを察したのかすいれんは、オレの部屋でベッドを背もたれにしたオレの隣に腰を落ち着かせると、そのまま押し黙った。
しかしそれは不貞腐れたのではなく、オレの気持ちに寄り添おうとしてくれている姿勢だと理解できる。オレのガールフレンドはそんな女の子だ。同じクラスで男子バスケ部マネージャーをしている、白河すいれん。
試合が終わり、帰ってきたオレの部屋。秋田美人のその整った顔を心配気に眉尻を下げて、オレの気が済むまで付き合うとしてくれているようだ。いつものオレならすいれんが隣に腰を下ろしてくれたら、その細い腰に手を回して、甘く君の唇を奪うとこだけど……

「氷室くん……おっぱい、揉む?」
「……………」

聞き間違いだろうか?
すいれんを呆気に取られて見つめるだけの何も答えられずにいるオレを、怒ったとでも思ったのか、オレの前に移動してくるすいれん。そうしておずおずとオレの顔を覗き込んだすいれんの表情が、純粋に心配そうで。オレは何だかこうして子どもじみてスネていたことが急にバカらしくなった。思わず笑ってしまったオレに、すいれんは目を白黒させてとても戸惑っている姿がなんとも愛らしい。美人なのに、これだからすいれんは。

「いや、ごめん。あんまり突拍子もないことを言うものだから」
「うぅ……元気出して?と言われるより、こう言われたほうがうれしいって、書いてあったから……」

何に書いてたんだ。自分で言い出しておきながら、顔を赤らめてオレを見られないでいるすいれんの姿があまりに愛おしく、いつまでも眺めていたくなる。すいれんの見た目の良さは、顔だけではなかった。背はさほど高くないものの、高校生にしては全体にやわらかそうな体つきで、特に制服の上からでもその存在を主張してしまっている胸には、目を見張るものがあった。

「すいれん?」

オレはその豊満な胸からすいれんの整った顔へ視線を移しながら、すいれんを観察する。

「……うん」

こくり、と小さく頷くすいれんの顔は今やさらに赤くなっていて。髪の間からかすかに見える耳までも赤くしていて。悪い癖がオレの中で首をもたげた。

「言いだしのは君なのに、照れるなんて可愛いね。でも」

すいれんの細い肩を掴みそのまま押し倒す。君は驚いた顔をして、それから頬を赤らめて潤んだ瞳で遠慮がちにオレを見上げてくるその表情に、とてもじゃないけど自分が男だと自覚する。

「すいれん……今からオレに何をされるのか……わかる?」

体をよじらせ潤んだ目をそらしてしまうすいれんがいじらしい。

「男にそんなこと言うものじゃないよ」

顔をすいれんの耳元まで下げ、できるだけ小さな声でつぶやく。

「わ、私……氷室くんを、励ませられたらと思って……」
「ふぅん?」

すいれんがいじらしくもオレの下から逃げようと体をよじるので、すいれんの頭の両脇で恋人繋ぎで押さえつけていた手を、頭の上で一つにして押さえつける。

「あ、氷室く、」

空いた手をすいれんの白い頬に這わせ、すっ、とやわらかな可愛い彼女の唇を親指で潰すように撫でる。

「ん……こん、な、…つもりじゃ…。氷室くんの元気が出るなら、って。起きたままの、体勢で、」
「そんなつもりじゃない、か……甘いねすいれん」
「え……や、氷室く……、」

白い頬を撫ぜていた手を、スと脇腹を撫でる。ビクッと肩を震わせ、嘆願するように首を振り目に涙を浮かべるすいれん。

「ひゃぁ!」

押さえつけていたすいれんの細い白い手をぐいっと引っ張り抱き起こす。そして優しくすいれんの背中に腕を回して抱きしめる。
…相変わらず華奢だな、すいれん。折れてしまいそうなほど細いその腰に、自身の腕を回す。

「……すいれんを抱くのに中途半端なことできる訳ないよ」

すいれんの背中を優しくさする。

「驚かせてごめんね?」
「氷室くん……」

すいれんがきゅ、とオレの背中に腕を回してしがみつくように抱きついてきた。うーん……ダイレクトに伝わる胸のやわらかな感触は、男のオレには堪え難いけど。

「ありがとすいれん……愛してる」
「うん、私も……」

その言葉で腕にさらに力を込めて、すいれんの華奢な体を抱き込むように抱きしめる。どちらからともなく、唇を重ねた。
就職して家族を養えるようになったらすいれんにプロポーズしよう。いつか来る、すいれんを抱ける素晴らしい日まで。ゆっくり楽しむとするよ。