石畳!オシャレ!今私の目はキラキラしているんだろうな!イタリアはなんてオシャレなんだろう、建物も素敵で、上を見ながらくるくる周りを見渡した。



「上ばっか見てたら転んじゃうよ?ちゃんと俺を見てて」

「え、」

「こらフィディオ!」



後ろから両肩に手を置かれて、耳元でフィディオくんの声が聞こえた。その言葉にジャンルカくんが「少しは反省の態度をみせろ!」と怒っていた。

フィディオくんは気にすることなく私の手を引いてイタリアの街をズンズン歩いていく。



「名前、行きたいとこない?せっかくだから案内するよ?」

「そ、そう言われても…」

「トレビの泉は絶対行こうね、2人でコインを投げよう!それ以外だと何があるかな…ピサの斜塔なんて傾いてるだけでロマンチックじゃないし…女の子って何が嬉しいのかな…」



ぶつぶつ言いながら歩くフィディオくんは何だか可愛かった。だっていつも私に過激なコミュニケーションを取ってくるのに、「女の子って何が嬉しいのかな」なんて彼からそんな言葉が出るなんて思ってもなかったし。

てっきり女の子とのデートは慣れたものなんだと思ってたのは私の勘違いなのかな?



「いつもみたいな余裕のフィディオはどこ行ったんだよ?」

「マルコ!余計なこと言うなよ!名前に誤解されるだろ!」

「女の子とのデートは星の数ほどじゃないのか」

「ジャンルカまで!」



何だか3人で会話を始めてしまったので、私だけ取り残されてしまった感じ。

珍しくフィディオくんが慌てているようにも見えたけど、異性と仲良く出来ることはいいことだと思うし、そんなに慌てることもないのにな…?と私は思った。

周りを見てみると、日本で言うイタリアで有名な『真実の口』が目に入った。ローマの休日…だったっけ?それで有名になったんだよね。

興味本意で近づいてみた。
嘘をついていると、真実の口に手を噛み千切られてしまう、そんな話だったと思う。



「作り話、だもんね」



でも、手を真実の口に入れることが出来ないでいた。

私は嘘なんてついてないのに、なんで体はこんなに怯えているんだろう。作り話なのに。分かっているのに。

実は、本当に手を噛み千切られてしまうとか…?



「名前、何してるの?」



「わっ!」フィディオくんの声に驚いて、真実の口に手を入れてしまった。



「…なんで手なんか入れてるの?」

「え、あ、だって真実の口…だし」



そう言ってもフィディオくんは首を傾げていた。更に続けて「なんで?」と聞かれても今言った通りだし!

「ローマの休日だよ」マルコくんが笑いながら説明をすると、ジャンルカくんも「知らないのか」とフィディオくんを見ていた。



「だけどローマの休日がヒットしたのは日本とアメリカぐらいなんだ。だからこの像に手を入れてるのは大概日本人かアメリカ人なんだよ」

「え!そうなの!?」

「だからイタリアでサッカーに夢中なフィディオが知らないのも分かるけどね」


想像してみたら、一之瀬くんや土門くんは私みたいに、ローマの休日を思い出して記念撮影をする程度だと思うけど、アメリカ人のマークくんとディランくんを想像したら、めちゃくちゃはしゃいでいる風景が思い浮かんだ(笑)



フィディオくんは知らなかったのが悔しいのか、私の手を掴んで真実の口から手を抜くと、今度は自分の手をあっさり真実の口に突っ込んだ。

「ふーん」と一言言って手を抜くと、その手で私の手を握った。



「真実とか偽りとか、そんなの全く無い人なんていないよ。たとえ嘘をついたとしても、それが最善の嘘だったりもするんだから」



まるで、私の中を見透かされたみたいに握られた手が暖かかった。

私は知らなすぎる。
自分のことも、周りの優しさの意味も、これからのこともそれから

今までのことも。
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