「128件…!」



携帯の待ち受け画面には128件の着信履歴を表す文字が表示されていて、一気に寒気を感じた。

そのほとんどが一之瀬くんからだった。

飛行機の中だったから携帯を使えなかったのもあって、黙って出てきたままだったのをすっかり忘れていた。怒ってる?怒ってるよね…。

でも、と私は着信のボタンを押した。



「あれ…」



『ただいま電話に出ることが出来ません』という録音された一之瀬くんの声が聞こえて、本人に繋がることはなかった。

なんで、どうして?と思ったけど、一之瀬くんも私に連絡をとろうとして100回以上も同じことを繰り返してくれたんだ。でも私は気づかなかった。



「嫌われちゃったかな…」



涙が溢れてしまった。
涙を拭おうとしても両手の棒つきキャンディーが邪魔で上手く拭えなかった。

私はなんて酷いことをしたんだろう、散歩してきます、とでも置き手紙でも残しておけばよかったのに。ごめんなさい、ごめんなさい。

ごめんなさい。



「名前!」



肩を掴まれて顔を上げると、フィディオくんがいて「よかった」と息を切らして笑っていた。



「ってよくない!なんで泣いてるの!またたんこぶ出来てるし!両手のキャンディーは何!?」

「あ、これはもらった…」



「誰に?」と聞かれたけど首を横に振った。内緒という約束をしたから。フィディオくんは「そっか」とあっさり納得してくれて、彼の優しさを感じてまた涙が出てきた。

帰らなきゃ、そう呟いたら、フィディオくんは私の涙を指で拭いながら困ったような顔をした。



「そのこと、なんだけど…帰せない」

「え…?」

「イチノセたちに連絡をしたら、誰にも繋がらなかった。だから名前が今帰っても、あそこには誰も居ないよ」

「そんな…」



「名前を1人にするわけないだろ」一之瀬くんが私に言ってくれた。あの言葉は、嘘?でも1人で出ていったのは私の方だし、でもでもでも…。



「思っていたより時間がないみたいでさ、俺たちも行こうか」

「どこに、」

「イチノセたちがいるとこだよ」



フィディオくんは優しく笑うと、私の手を握った。「振り回してごめんね」申し訳なさそうな声がして、涙で声が出ない代わりに左手に持っていたキャンディーを渡した。

少し驚いていたけど、嬉しそうに受け取ってくれた。



「皆、迷惑かけてごめん。行こうか」



着いた場所はイタリアの空港だった。私の知ってるフィディオくんとは少し違って、キリッとした感じ。同じジャージを着た男の子たちに声をかけていた。その中にはジャンルカくんやマルコくんもいた。

「君は?」声をかけられて、視線を下げると金髪でくりっとした目の男の子…?がいた。



「あ、はは初めまして、名前です。フィディオくんの知り合い、です」

「違う違う、彼女だよ」

「それこそ違うよ!」



急にフィディオくんが割り込んできて、嘘を言うもんだからびっくりした。金髪の男の子は「へぇ」と一言。いや、へぇって何に対して!



「アンジェロって呼んで、よろしくね」

「わぁ…」



可愛い、咄嗟に口が滑ってあわてて口を押さえた。だって初対面で可愛いなんて失礼だよね、私のバカ!



「ごごごごめんなさい…」

「大丈夫、気にしてないよ。女の子の言葉は全て素敵な誉め言葉だからね」



なんだろう、可愛いと思っていたのに急にイケメンに見えてきた。

フィディオくんが横で「くっイケメンUPか!」と1人で悔しそうにしていたけど気にしないでおこう。さっきのキリッとしたフィディオくんは何処へ…。



「名前」

「なんでしょう?アンジェロくん」

「名前がきっとフィディオの力になってるんだね」

「え?」

「なんとなくだけどね」



にこりと笑うと、やっぱりアンジェロくんは可愛いなぁと思う。

よく分からないけど、人の力になれるなら私は嬉しい。誰かの為に生きていたはずだから。



「名前、トレビの泉はまた2人きりで行こうね」



フィディオくんはとても素直で頑張り屋さんでそれが今の彼に繋がっている、それが少しだけ羨ましかった。
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