FFIの開会式が行われる。私は選手ではないから観客席までしか入れないんだけど、雰囲気を味わえるだけでも幸せなことだと思った。
でもやっぱりちょっとだけ皆が羨ましいなぁ…。
「名前安心して!」
「ディランくん?」
「ミーがビデオカメラ持って入場するから、後で見せてあげるね!」
「ナイスプレー!ディランくん!」
わーいわーいとディランくんと喜んでいたら、土門くんに「早くしなさい」と怒られた、ピシャリと。すいません。
それを見て「バカだなぁ」と笑っていた一之瀬くんがつまずいて転んだのでディランくんとマークくんが笑っていたら「早くしろ」と土門くんが冷たく怒った。慌てて皆は駆け足で移動した。
「そういえば円堂たち、アジア予選勝ち抜いたんだって」
「え!そうなの!?全然知らなかった!一之瀬くん教えてよー!」
「タイミングの良いときに名前がいなかったからだろ?」
「またそうやって前のこと掘り出すんだから…」
「ごめんごめん」
「ふーんだ、秋ちゃんにメールしとこっと」
一之瀬くんがさっき転んだことも書いちゃうからね!って仕返しに言ったら、少しだけ、彼は悲しい顔をしたかもしれない。転んだことがそんなに悲しいとは思えないけど、私も悲しくなった。
「なぁ名前」一之瀬くんを見上げた、いつもより真剣だった。
「ボールを蹴る感触って分かる?フィールドを走り回る感覚とか」
「よく、分かんないかも、サッカーやったことないし…」
「…俺も君とサッカーしたかった」
この言葉を聞いたのは2回目だった。あの時はマークくんとディランくんとフィディオくんでサッカーをやった日に、一之瀬くんが寂しそうに言っていた。
でも今のは?
「変な顔」一之瀬くんが私を見て笑った。心配してやったんだぞ!なんて言えなくて、とりあえず秋ちゃんに開会式で会えるといいね、とメールをしておいた。
開会式はテレビでしか見たことのないオリンピックの開会式を生で見ているような感じで、ダンスや花火が凄く綺麗だった。
自分のよく知っている人たちがこの夢の舞台で戦うと思うと、本当に凄いことなんだなと感激してしまう!
会場ももちろん凄い盛り上がり!紙吹雪もたくさん舞っている!お土産に持って帰ろう!
とその時メールがきた。秋ちゃんからだ!文末に「お互い頑張ろうね」と書いてあって、無性に秋ちゃんに会いたくなった私。監督にちょっと抜けます、と伝えて観客席を出て秋ちゃんたちのいる場所を探した。
「イナズマジャパンはどの辺かな…」
日本代表のユニフォームを着て応援に来ている人たちを頼りにフラフラと歩いているけど、タイタニックスタジアムは広くて、観客席の外も広く感じる。
秋ちゃんやイナズマジャパンの皆に会いたいな…円堂くんは相変わらずだろうし、あと新しく耳にしたジャパンのメンバーも気になるなぁ、…虎くんと鷹くんだったかな、宿舎に帰ったらちゃんと確かめておこう!
急に心臓がドキリとした。
私は振り向いた。
けどたくさん人がいて、なんだったのか分かんなかった。
多分男の人とすれ違ったときだと思う。なんでこんなに緊張に似た気持ちになったんだろう。
頭が痛いかも、風邪かな、ここに来るバスで酔ったかな。きっとそうだ、慣れない土地を行ったり来たりだったりで疲れてるのかも。
そうだよ。
変な汗が額を濡らして、壁に手をついた。ちょっと休んだらきっとすぐに治るはず、落ち着こうとして少しの間だけ、私は目を閉じた。
「名前?」
「ご、豪炎寺、くん」
「どうかしたのか?」
久しぶりに豪炎寺くんを見た。隣には見覚えのない男の子がいて、2人は私に気づいて近くに来てくれた。
気づいたら周りに人がいなかった。開会式はもう終わってしまったみたいで、豪炎寺くんたちも宿舎に戻るところだったらしい。
「1人で何してるんだ?まさか迷子か?」
「ちっちがうよ!」
「名前は本当によく迷子になるから」
サッと汗がひいて、豪炎寺くんの言葉に普通に言葉が返せた。けど彼は「顔色悪いぞ」と頭を撫でて心配そうな顔を私に向けたから、私は大丈夫だよ、と笑顔を返しておいた。
気のせいだよね、もうさっきの頭痛はなくなったし、変な汗も出てこない。もしかしたら人の多さで酔ったのかもしれない。
「名前、迎えじゃないか?」
「あ、マークくんとディランくんだ」
「じゃあ俺たちも行くよ」
「うん!またね。豪炎寺くんと…」
「宇都宮虎丸です!」と豪炎寺くんの隣にいた男の子は可愛らしく自己紹介をして、私にペコリとお辞儀をした。そして豪炎寺くんの後について駆け足で行ってしまった。
はっ、彼がジャパンの虎くんか!
「あれがカズヤの認めるエースストライカーのゴウエンジ…鋭い目で俺を睨んでいたな」
「マークが先に見てたからじゃないかな?」
マークくんは真剣に、去って行った豪炎寺くんの後ろ姿を見ていた。ディランくんはそれにツッコミを入れていたけど、マークくんは聞いてないようだった。
それから一之瀬くんと土門くんもやってきて、私たちも宿舎にもどることになった。
頭の中に残る違和感に少し気分が悪くなったけど、バスの中で一之瀬くんの肩を借りて寝たら、宿舎に着いた時にはすっかり良くなっていた。
「ディランくん!開会式のビデオ見ようよ!」
「オーケー名前!今夜はオールナイトで明日は昼に起きよう!」
「ダメ」
ピシャリと叱った土門くんはお母さんみたいです。