※TPO:時と場所と場合を考えて行動すること



ユニコーンの初戦の相手はイギリス代表のナイツオブクイーンだそうです。

ちなみに一之瀬くんにナイツオブクイーンってどういう意味?って聞いたら「簡単に言えば、お姫様を守る騎士ってことさ」と教えてくれた。

かっこいい!と目をキラキラさせてみたら「ナイトなんて俺は嫌だな」一之瀬くんがこっちを向いた。



「どうして?お姫様を守るナイトってかっこいいよ?」

「ナイトなんて誰にでもなれるよ、俺はお姫様にとってたった1人の王子になりたいな」

「それも素敵だね!」

「お姫様1人残して戦場になんか行ったら、お姫様はきっとすごく不安だろ?俺はお姫様が不安にならないようにずっと側にいるよ」


生きる時も死ぬ時も君の側を離れたくなんてないから


「ね、名前」とニコニコ笑う一之瀬くんに私も首を傾げながら笑い返しておいた。ロマンチストな言葉に何故だか共感してしまうのは、それを言った彼を私が信頼しているからなのだろうか。

とりあえず納得した私は、はっ!と思い出したように、今朝ポストに入っていたカードを一之瀬くんに差し出した。



「これ…パーティーの招待状?」

「ナイツオブクイーンって書いてあるね?」



2人でカードを眺めてから監督に届けると、それはもう行くしかねぇだろうと言うように、練習もそっちのけでパーティーの準備をすることになった。それでいいのか!?

チームメイトにも知らされて、それぞれ正装をしなくてはならなくなった。「堅苦しいパーティーは嫌だな…」マークくんがため息をつきながら言う。



「マークくんは何でも似合いそうだね」

「嬉しいけど、正装するようなパーティーはあんまり好きじゃないんだ」

「そういえば私もマナーとか分かんないな…ご迷惑にならないように隅っこにいようかな」

「それじゃつまらないだろ?」

「堅苦しいパーティーって退屈なものだよ!」



映画やドラマで見たことあるよ!私の言葉にマークくんが少し考えるしぐさを見せた。「それなら…」それなら?



「退屈だったら俺がその手をとって連れ出してもいいか?」

「え?」

「それがお前の命取りとなる訳だね?マーク」



ゾワッとしたと思ったら一之瀬くんが真っ黒いオーラを漂わせていた。

「カズヤ…」マークくんもひきつった顔をしている。分かる、私も今恐怖でいっぱいだもん。



「大丈夫、俺が名前を退屈になんてさせないよ」

「そうそう!ミーもいるしね!」

「ディランはちょっと黙ってて!」

「カズヤ!ミーが黙ったらチームが大変静かになっちゃうよ!」

「それはそれで寂しいけど今は黙る時なの!TPOですディラン!」

「オーケーカズヤ!」



まるでコントでもやっているかのような掛け合いにブフッと噴き出してしまった。

一之瀬くんは「あーもう!」と頭を抱えていた。噴き出したのはやっぱり失礼だったかな?だって笑わずにはいられなかったんだよ…。



「お前らに早く支度をしろと俺は言いたいんだが」



土門くんが既に正装した姿で私たちを見て呆れたように言う。わぁ!土門くんかっこいいよ!

似合うね似合うね!興奮しながら言えば「まぁな」と自慢気だった。うん!本当に似合うよ!



「ちょっと背が高いからってぇ、上から見下ろされると正装する気も薄れるって言うか?」

「アスカは袴でいいんじゃないかな?ミーはそっちのが似合うと思うよ?」

「え、あぁ似合う似合う」

「お前らって本当ガキだな」



一之瀬くんもディランくんもマークくんも若干ムスッとしながら着替えに行ってしまった。なんででしょう。

きっと皆も似合うんだろうな…。1人で勝手に想像して、写真撮らなくちゃねーとワクワクしていた。



「名前は着替えないの?」

「着替えるよー」

「どんな正装するの?」

「え、スーツかな…って、あれフィディオく」

「それは絶対的にダメだよ名前!!!?」



ここはアメリカ代表の宿舎なのになんでフィディオくんがまたいるの?疑問に思っていると、肩をガシッと捕まれた。



「パーティーの正装だよ!?もっと大切な時に着る洋服があるでしょうよ!」

「だから就活の為に買っておいたリクルートをですね…」

「働く気満々!?じゃなくてそれは今着るべきものじゃないでしょ?TPOですよ名前!」

「して、今着るべき洋服とは…?」

「ドレスに決まってるよ!」



ドレス!?そんなの持ってないし、私に似合うわけないよ!そしたら監督がヌッと現れて、私に紙袋を渡した。監督を見上げれば「ソーキュート」と親指をグッと立てた。

これに着替えればいいのかな…。

フィディオくんを見たら「ティアモ!」と親指を立てていたけど私はイタリア語の理解は皆無なので、はぁと空返事で済ませた。

フィディオくんが見るからに肩を落としたのが分かりました。


なんとか着替えてみたけど、こんなにフワフワのワンピースを着たことがない私は恥ずかしくて、なかなか外に出られないでいた。

外には着替え終えた一之瀬くんたちが待っているのに…うぅ恥ずかしいよー!



「名前早く出てきなさーい」

「だってだって」

「恥ずかしがる必要なんてないよ?むしろ早く見たいんだけどな」

「私に似合ってないよ…」



だんだん自信がなくなってきた。
あぁこんなにネガティブになっちゃうなら、どや!と外に出てしまえば良かった…。今さら出られない。

パーティーに私が行かなくったって何も変わらないだろう。だって私はただのマネージャーだし、へっぽこだし。



「名前」

「あのね、一之瀬くん…」

「会いたいよ」

「え…」

「早く出てきて」



舞台に招かれるように、私はドアを開けた。直ぐに手を引かれ、目の前に一之瀬くんが笑顔で私を見ていた。

「とっても似合っていますよ、お姫様」嬉しくて、こうやって優しく導いてくれる彼に泣いてしまいそうになって、ぐっと我慢した。


ただ一眼レフを構えるフィディオくんが放つ高速シャッター音がすごく気になった。
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