「どうぞ、素敵なレディ」
イギリス代表のエドガーくんがキラキラと私に手を差し出してくれたので、おぉ!と思わずその手を取ろうとした、ら
パシィンッ!と一之瀬くんが花札のごとくエドガーくんの手を弾いたのだった。
「あぁごめん、虫が見えて」
「イチノセ…彼女が随分大事なようですね」
「痛かった?」
「しかしそんなにガードを固くすると逆効果なのではないですか?レディというのは…」
「ていうかお前が虫だもんな」
「会話をしてくれないか」
ニコニコの一之瀬くんからまた黒いオーラが見える!今日はいつにも増してブラックになってる気がするな…。
何だか2人の会話がよく聞こえないので私はフラフラとその場を後にして、マークくんの近くに行った。
土門くんは監督が飲みすぎないように見張ってるっぽい。なんていい人なの土門くん…!
そういえばフィディオくんが見当たらない、確か招待されてないから会場には入れないとか。
でもどこからともなくシャッター音が不気味に聞こえてくるのは紛れもない事実であって無視の対象だった。
「あれ、カズヤと一緒だと思ったよ」
「一緒だったんだけどエドガーくんと話してたから」
「…あぁ、なるほど」
分かったのか、マークは納得したような声を出して、苦笑いをしていた。
たくさんお料理が並んでいて、それがまるで芸術みたいだから食べてもいんだろうかと思っていたのに、マークくんの横でディランくんがモリモリ食べている。さすがアメリカ人は度胸があるのね!
「ディラン、食べ過ぎるなよ、それから服にこぼすなよ」
「分かってるよ、でもスーツはやっぱり動きにくいねマーク」
「最近1回着たばかりだしな」
「え、いつ?」
私が知らないとこで皆スーツを着ていたんだ…。気になって聞いてみたら、FFI出場記念記者会見の時に着たらしい、そんなのいつやってたの?「その時名前いなかったからな」
そっか、多分私がイタリアに行っていたときだ。
なんだか寂しかった、私がいなかったのが悪いのに…アメリカ代表の一員というわけでもないのに、私は無性に孤独感を感じてしまった。
「大丈夫だよ名前!こんなこともあろうかとミーがテレビで放送されたのを録画しといたからね!」
「グッジョブだよね!」とディランくんが自慢気に笑うからありがとう!とお礼を言っておいた。少し元気がでた!
楽しみだな!記者会見に知り合いが出てるなんて、滅多にないしね!と思っていたら話が終わったのか一之瀬くんが私たちの所にやってきた。
「俺、エドガーの髪をぶった斬りたい」
「いきなりブラック全快だなカズヤ…」
「エドガーまじウザイ」
「オー!カズヤったら名前の前でも口が悪いね!よっぽどウザかったんだね!」
どんな話をしたのかは全くわからないけど、一之瀬くんはイライラしているようでムスッとしていた。
せっかくパーティーに来ているんだからそんな顔してるのは勿体ないよ、私は一之瀬くんの手をキュッと握った。
いきなりで驚いたのか、彼はビックリした顔で私を見る。そんなことはお構い無しに握った手を引いて歩いた。
「名前…?」
「気分を変えてイライラした気持ちを吹き飛ばすのもいいと思って!」
「え、あ…だから会場から連れ出してくれたんだ」
「そう!あ、でも迷惑だったかな…!」
気分転換になればと会場から離れた橋のところまで一之瀬くんを引っ張ってきたんだけど…そうだよね、一之瀬くんは嫌だったのかもしれないよね…。
ごめんね、と言ったら「謝らなくていいよ」って笑ってくれた。
「謝るのは俺の方だよ、名前から手握ってきて…その、変な勘違いしてたし…」
「勘違い?」
「2人きりになりたいのかと思ったよ」
「まさか!」
って言ったら思いっきり「ですよねー」と肩を落とした一之瀬くんによくわからないけど面白くて笑ってしまった。
「笑うなよ」なんて言われても、珍しく顔の赤い一之瀬くんが可愛くて笑いなんて止まらなかった。
「可笑しいなぁ、いつもは俺のペースなのに」
「振り回されっぱなしじゃないんだよ、私は」
「そうだね。本当、名前のことはいつまでも掴めないな…エドガーに言われたばっかりなのに…君では、彼女のハートを掴めないだろうって…」
こんなに近くにいるのに
一之瀬くんが私の両肩に手をおいた。なんだろうと少し顔を上げて一之瀬くんを見ようとしたら、彼の顔がすごく近くにあって
すごく近くて、ぶつかるんじゃないかと思った。
頭の中が真っ白になった。
「カズヤー!名前ー!」
どこかでディランくんの呼ぶ声がした、わわわ!この状況は何!?急に恥ずかしくなってあたふたしだしたら「動かないで」と一之瀬くんが言う。
「い、一之瀬くん…」
「ほら取れた」
「え、?」
「花びら。何かエドガーの匂いがするから川に流しちゃおうポイッ」
言葉通り橋の下の川に花びらを投げる一之瀬くん。そして完全に嫌われてるエドガーくんは一体…。
「ディランが呼んでるから戻ろうか、名前」
「う、うん」
「ふふ、顔赤いよ」
「ななな何を言ってるのかな!」
ちょっとは期待してくれた?
久々に一之瀬くんが意地悪く笑って、やっぱり私は振り回されっぱなしなんだなと思った。