会うたびに、話をするたびに、彼女に似ていると感じてしまう。
でも何も言わないから、ただの思い過ごしかもしれない。
まだ幼い頃、フィディオとサッカーをやっていた時だった。ポツリとベンチに座って、ボーッとしている女の子がいた。あんまり見かけない子だな、と思って特に気にはしてなかった。
フィディオがボールを蹴って俺がそれを蹴り返していたが、いつまで経ってもボーッとしてるその子がだんだん気になってきた。
「マーク!」
「なに?」
「女の子がいる!」
日も暮れてきて、フィディオがやっと気づいたように、俺の気にしていた女の子を見ていた。
「…そうだね」
「ボーッとしてるけど誰か待ってるのかな?」
「…どうだろう」
「もう太陽も低いのに1人じゃ危ないよね」
それで何を思ったのか、フィディオは俺からボールを足で受け取ると、女の子の方を向いた。
「おい、フィディオ?」
ドカッとボールを蹴る音が響いた。少し遠くにいる女の子まで飛ばすつもりならちょうどいいくらいの力。
ボールを目で追うと、女の子に向かって飛んでいく。
でも、このままじゃ…。
「危ない!」
叫んだのは俺だった。
女の子は声が聞こえたのか、顔を上げた。けどボールには対応出来なくて見事顔面にボールを受けた。
「何やってんだよ!」
「ボーッとしてたから、ボールには気づいてくれるかと思ったんだけど…加減が出来なくて、」
「泣きそうになる前にあの子のところに行くぞ!」
若干涙目になっているフィディオの手を引いて女の子のところに走った。
近くに行けば「はい」とボールを差し出してきた。おでこが赤くなっていたが、涙1つ流していなかった。誰でも当たったら痛いはずなのに、その子からはその様子が全然伝わってこなかった。
「泣かないで。ほら、ボール」
「あ、ありがとう…ごめんなさいっ」
「君は泣き虫さんだね」
そう言ってフィディオの頭を撫でた女の子。
「フィディオくんて、なんか可愛いね」と頭を撫でた名前。
その笑顔と仕草や行動が、やっぱりあの子が名前だと思わせる。
なぁフィディオ、お前もあの子と名前を重ねたんじゃないのか。
だから蹴ったんだろ、名前の顔面にサッカーボールを。