遊びに来たフィディオくんにお茶でも出そうかと考えていたら、なんだかキョロキョロして首を傾げるフィディオくん。私もそんな彼に首を傾げた。
「どうしたの?」
「うん、今日イチノセとドモンは?」
「2人とも出かけちゃったよ?」
「そうなの?じゃぁ今日は俺と2人…」
言葉を破ったのはディランくんがドアを開けた音だった。
「あれ、カズヤとアスカは?」とディランくんも同じことを聞いてきた。マークくんもディランくんの後ろからひょっこり顔を出して、「珍しいな」と呟いていたけど…私1人じゃ変なのかな…?
「名前の側にはいつもカズヤがいるもんね、カズヤがいないときはアスカがいるし」
「ふふふ、今日はイチノセという名のナイトがいないのか、ヤッター!」
フィディオくんが嬉しそうに私に抱き着いてきた、転びそうになったけどマークくんが慌てて支えてくれて、後頭部にはタンコブを作らなくてすんだ。
「でもフィディオ、カズヤがナイトならフィディオは何なんだい?プリンセスを拐いにくる悪い魔法使いってとこ?」
「どっちかというと厄介な中ボスだろ」
「名前が手に入るなら俺は何にだってなってやるさ」
サラッとフィディオくんの言った言葉が妙にくすぐったくて、思わずマークくんの後ろに隠れた。そんな私をマークくんは「可愛いな」と笑った。
「名前を拐ったからって悪役とは限らないさ、プリンセスが愛した人が運命の人なんだから。それが中ボスだっただけの話だよ」
「おぉ…か、かっこいいよフィディオくん…!」
「痛リア人」
「俺は痛くないぞぉー!」とマークくんにプンプンしたフィディオくんはどっちかというと可愛かった。
部屋に転がっていたサッカーボールを見て、皆がサッカーをしている様子が思い浮かんだ。
つい最近アメリカ代表選考会を見たからだと思うけど、何でボールを自分の思うように蹴れるんだろう…。
「私もサッカーやってみたいな…」
ボソッと言った言葉が何故か3人には聞こえていて、「ミーのシュート見せてあげるよ!」とディランくんに引っ張られて、4人で外に駆け出した。家の鍵、掛けてないのに…。
「よーし!名前、俺が手取り足取り教えてあげるからな!」
「手を使ったら反則だぞ」
「いたたた!マーク冗談キツいな!いたた!そうだね!サッカーは足だね!手は必要ないね!いたたた!」
まるで痴漢を捕まえた駅員の人みたいにマークくんがフィディオくんを捕まえてて、思わず吹き出しそうになったけど必死で堪えた私えらい。
「そういえばキーパーいないな…」
「俺はMFだしな」
「ミーとフィディオはストライカーだからね!」
「…わ、私がキーパーやろうか…?」
「「「いやいやいや」」」
私がやるしかない、と若干ビビりながら言えば「名前がシュート決めなきゃ意味ないじゃないか!」フィディオくんが私にボールを渡してきた。
でも皆前線に立ってこう、指示を出すポジションにいるわけだし…シュート決めてみたいとか、さっき言わなきゃよかったな…とちょっと反省。
「俺がやるよ、立ってる程度しか出来ないがそれで良ければ」
「それに名前のシュートなら、止められなくはないな」マークくんが優しく私の頭を撫でてゴールの前に歩いて行った。
わぁ、マークくんはなんて優しいんだろう…キラキラしてて、まるでヒロインが惚れてしまうヒーローみたい。モテそうだもんな…。
「そんなカッコイイ、マークにオーディンソードを受けてほしいな!」
「ミーは名前との愛のユニコンブーストをマークに見せつけるよ!」
「お前ら醜いぞ」
フィディオくんの合図でボールが回ってきて、とりあえずディランくんにパスをする。
少し走って、ディランくんがまた私にパスをする。ゴールは目の前、マークくんが立っている。
ぐっと足に力を入れてできる限り思いっきりボールを蹴った。
なんだろうボールってこんなに固かったんだ、今さらだけどふと感じた。
顔面に当たった時も相当痛かったぐらいだもんね。
ドカッと音がしたかと思うと、何故か顔面でボールを受け止めたマークくんがいてビックリした。
「マーク!キーパーは手を使っていいんだよマーク!ハンド!ハンド!ミーだってそれくらい知ってるよ!」
「マークったら、いくら手加減しようと思ったからって、顔面で取らなくてもいいのにぃ」
マークくんは真っ赤になって鼻血を出していた。
ん?何で真っ赤?照れてる?んん?
「あ、」
「違う!風の仕業なんだ!」
私はスカートでした。
誰か始める前に気づいてよ。
真っ赤になった鼻血のマークくんはどっちかというと可愛かった。