メテオの瞳 | 20:44
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「おなかいたい」

地の底を這うような声でぼそりとつぶやくと、なにかプリントの束をまとめていた赤司がちらりと視線をよこした。夕焼けに染まる教室。机とくっつけた頬が冷えている。毛先が目に突き刺さりそうで瞬きする。

「おなかいたい」

繰り返すと、ため息を吐かれた。うん、やはりかみさまは不公平だ。美形はなにをやっても様になる。わたしはすこしだけ神を呪った。すぐさま下腹部の鈍痛をおもいだして、憂鬱になる。はああ、と重たい息をただただ吐き出して、こてんと頭を転がした。

「なにかへんなものでも食べたのか」
「ちがいマース…おにゃのこの日デース…」
「ああ…成程。ご愁傷様」
「赤司くんはやさしくありませんね」

いまものすごくチョコレートがたべたい。あまいものがほしい。ああはやくかえりたい。子宮のあたりをぐぬぬと睨みつけ、わたしは気を紛らわせようと口をひらく。

「赤司くん、赤司くんや。テスト期間なのにどうしてきみはそんな仕事請け負っちゃってるんだい、はやくかえろうよ…」
「僕は先に帰っていていいと言ったろう。待っているのはおまえの意思だろうに」
「んー…そうだっけ…そうかもね」

やばい記憶が曖昧である。そういえば今日は1日こころのなかで唸りながらいろんなひとのはなしを聞き流していたような。…というか、この男はずっとわたしの横にいなかったか?

「…赤司くんや。つかぬことをお聞きするけれど」
「なんだ」
「それもしかしてわたしに押し付けられたオシゴトだったりしない?」

ぱちん。ホッチキスの音が孤独に響く。夕焼け色を吸い込んだ彼の頭はいつもにも増してまぶしい。ごろりと転がしていた頭をもたげると、わたしと目を合わせた彼は目をまたたかせた。いろちがいのひとみ。

「どうだろうな」

口元をゆるめ、彼は柔らかく微笑む。あ、誤魔化された。追求を許さず赤司は手際よく紙をホッチキスで綴じていく。ああ、あの顔がもしかしてそのへんのおんなのこたちを虜にしているのだろうか。たいへんだな、美形って。
痛みを訴える下腹部を押さえ、机に突っ伏す。きっとこの顔の火照りは錯覚だ。やさしさによわいのはいつだってかわらないのだ。


あなたはいまごろどの紙のうえで活躍しているのでしょうね 2日遅刻かな お誕生日おめでとうございました


銅貨