Aまひるの月とシエスタ | 19:34
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銀の食器が光っている。それによそられた和食はなんだかとてもミスマッチだったけれど、湯気を上げる料理はどれもほんとうにおいしそうで事実それがおいしいのを知っているわたしは今日も黙々と食器を並べる。

「今日も頑張っていたな、マイリトルシスター。それじゃあ晩餐と洒落こもうか」
「はい」

「我らが父よ」

彼の喋り方は独特で、けれどわたしとふたりきりになったときはその独特な喋り方がはんぶんくらいになる。彼の目はあたたかな光をたたえている。だから安心する。こちらから話しかけずとも彼は喋っていてくれる、だから楽だ。

「美味いか?」
「…ん、おいしいです」
「そうか、よかった」

白米に御御御付け。ほうれん草のおひたしと、鮭のムニエル。神父様はそのなりをしていながら和食がいちばんの得意料理で、黙々と食べているだけのわたしをにこにことながめている。格好つけしいの彼ではあるが、やさしいのだ。とても。

「纏はおいしそうにたべるな」
「…?そうですか?」
「ああ。作り手としてはとてもうれしい。よく食べてくれるしな」
「……わたし太りましたか」
「えっ」

神父様の台詞にふと気づく。よく考えてみれば、最近は徐々に食べる量が増えてきたような気もする。わたしが覚えていない範囲の「わたし」はこれまでどれくらい食べていたのかはわからないが、それでもそういえば、最近はよく食べている、のかも、しれない。体重計にも乗っていない。…太ったの、だろうか。

「………」

黙って箸を置いたわたしを見て神父様は見るからに慌てふためいた。

「いやそんなことはないぞシスター!確かに最近はよく食べるようになったと思うが、」
「やっぱり」
「そうじゃなくて!むしろ前はまったく食べなかっただろう、だから健康的になってきているんじゃあないか!」
「…健康的?」
「そうだ。骨の浮いた細い手よりも、健康的なラインの手の方がよっぽど安心する」
「……」

わたしは自分の指を見下ろす。ふつうの指だ。細くもなく太くもない。安心する、とはいったいどういう意味だろうか。そうたずねると、神父様はやわらかな笑みをうかべて、手を伸ばしわたしの頭をなでた。

「纏が元気でいてくれるだけで俺は幸せだからな。そういうことさ」
「…よくわかりません」
「そうだな…よく食べて、よく働いて、よく眠る。そこに愛すべき家族が共にあれば、それだけで毎日は薔薇色になるだろう」
「そういうものですか」
「そういうものだ。それに纏は太ってなんてない、俺のかわいいシスターだ」
「…」

ちょっとだけうつむいて、わたしはしばし考えて、それからまた顔を上げる。そのやさしい彼の顔を見上げる。わたしのことを心配してくれるひと。わたしのことを大切にしてくれるひと。わたしを家族だっていってくれるひと。

「ほんとですか」
「ほんとうさ」
「…ありがとうございます」

それににっと彼は笑い、「それじゃあ夕餉を再開しようか」と椅子に座り直す。わたしはそんな彼に、ちいさく告げるのだ。

「カラ松さん」
「?なんだ?」
「…わたしも、もしかしたらしあわせかもしれません」

それはちいさな教会の、あたたかな夜の話。


銅貨