ふぅと深呼吸をする。
今は丁度休憩時間のはず。廊下には数人の学生がいて、扉の前で立ち尽くす私を不思議そうに横目で見ていた。ずっとこのままでいても仕方ない。相澤先生の言う通り、時間は待ってくれないのだ。
よし、いくんだ。意を決してドアに手をかける。がらりと開けた先では皆がクラスの真ん中に集まって、音のした方を振り返っていた。

「名前ちゃん!」
「っ、ごめんなさい!!」

麗日ちゃんが名前を呼んでくれる。その声がトリガーになったかのように頭を勢い良く下げた。視界が滲む。視線の先にはふるふると震える私の足先。怖くて、膝が笑っているのだ。嫌われたくない。もう、捨てられたくない。居場所がほしい。みんなと一緒にいたい。
沢山の感情が込み上げてきては溢れそうになる。人に想いを伝えるのがこんなにも苦しくて辛いなんて。

「顔、あげて?」

麗日ちゃんの言葉を受け、ぎゅっと目を瞑る。怖い、怖い。
それでもゆっくりと顔を上げると、みんなが、笑っていた。

「もーっ心配したじゃん!どこいってたの!」
「あし、どちゃん」
「三奈でいーってば!今みんなで色々話してたの!名前ちゃんの歓迎会やろって!」
「…っえ、?」

にっこりと笑う芦戸ちゃんの言葉に目を丸くさせていると、その後ろから蛙吹ちゃんか顔をのぞかせた。

「名前ちゃん」
「ぁ、蛙吹ちゃん……あの、私ほんとにっ!ごめんなさい!」
「謝るのは私の方。ごめんなさい。名前ちゃんが凄く傷つくことを言ってしまったわ」
「違う、蛙吹ちゃんは悪くなくて……私が、弱いから。弱くて自分を制御…できなくて、皆を傷つけちゃった……本当にごめんなさいっ」

ぽろぽろと涙が溢れる。それを見て八百万さんがハンカチを差し出してくれた。

「確かに名前さんに切られた時は驚きましたし、多少恐怖もしました。あまりに速くて、反応することも出来なかった」
「ごめ、ごめんねっ」
「ううん、違うんよ名前ちゃん。あのね、私達考えたんだけど、名前ちゃんの攻撃を読めなかったのも迫力に気圧されたのも、まだまだ実力が足りないんじゃないかなって。負けてられないなって思ったんだ」
「う、ららかちゃ、」
「もーぼろ泣きだね。後で冷やさないと腫れちゃいそう」
「っなんで、みんな…怒ってない、の?私いっぱい傷つけたのにっ……ステインの妹で、おんなじような個性で……怖くないの?皆のことっ、また傷つけたりするかも……しれないのにっ」

八百万ちゃんのハンカチはもう既に涙でグシャグシャになっていて機能を果たしていなかった。溢れ続ける涙を止めようと思った瞬間、教室の奥からBOOOOM!!!と爆発音がする。もしかしなくても彼だった。

「さっきから聞いてりゃグズグズうっせェんだよ泣き虫女!!てめーに傷つけられるのなんか二度とねぇ!!調子乗ってんじゃねぇぞカスが!!!」
「爆発さん太郎絶好調だな……けどまァそうだな!俺らも強くなっから、名前も一緒に頑張ろーぜ!」

切島くんの言葉に、また泣きながらうん、うんと頷く。手から溢れる涙は肘を伝いぽたぽたと先ほど降らなかった雨のように床に染みこんでいった。
私ここにいていい?強くなるから。誰も傷つけないように。皆を助けることができるように。誰にも、ステインにも負けないように。

強くなる。






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