その後、10チームすべてと戦い終わった時には立てないくらい疲れきっていた。個性を使い過ぎると反動で腕が麻痺するのだが、あと一チームでも多かったら確実に麻痺していたな。というか、6チーム目の瀬呂、飯田チームという機動力抜群の2人にボロ負けしてから、あとはがたがたと崩れていった感じだった。持久力が無いと転校早々に相澤先生に指摘されてはいたが、改めてまざまざと感じたし、役割が逆で防戦されてしまっていたら私は1チームにも勝てなかっただろう。あと硬化系。最後に戦った切島くんには傷ひとつつけられなかった上に刃物の類を殆ど折られてしまった。あー、修理会社とかに連絡しないとなぁ……もし、そういう硬化系のヴィランと出会ってしまったらどう対処すればいいのか……考えていくのが課題となった。
放課後、みんなで反省会。刃物を使った接近戦が得意な私は、刃物に頼らなくてもヴィランと渡り合えるよう、尾白くんや砂藤くんみたいに体術的なことを習得しなければ……

「名前さん、あの」
「緑谷くん、どしたの?」
「あっいや、もしで良かったら教えてほしいんだけど」
「うん」
「自傷では自分に対して個性発動しないって言ってたけど、不意の事故とかでは発動、するのかなって思ったんだ。ほら、かっちゃんたちの試合で、凄い速かったから」

緑谷くんのその言葉に、目を丸くする。それは誰にも言ってないことで、こんなにも早く見破られるとは。肯定と驚愕、それを彼に伝えると、分析が趣味でと照れていた。彼は観察力や判断力に長けている。ヒーローとして最高の強みだ。

「だからなんだね。かっちゃんの攻撃避けてた理由がわからなかったんだけど、もう発動してたから必要なかったんだ。そうすると……」

緑谷くんは指を口元に持って行くと何回か見たことのあるブツブツモードに入ってしまう。初めて見た時も思ったけど、なんか怖いな。苦笑いを浮かべていると上鳴くんが話しかけてくれた。

「名前まじ強くね?俺と青山手出せなかったわ」
「あはは…上鳴くんの個性の帯電がどれくらいピンポイントでできるか分からなくてさ。人質盾にしないとーって。単独で近寄ったらやばかったから」
「奇襲されるかと思って超身構えてたのに立て籠もりだもんな。それに青山もビームじゃん?俺らどっちも人質前にされたら巻き添え食わせちまうし…」

くそーっと悔しがる上鳴くんに勝てた嬉しさとどこかある申し訳なさを抱きながら、また声を出して笑った。それを見て彼は思い出したように口を開いたが、やっぱなんでもねーっと誤魔化してしまった。

「何?気になるよ」
「いや、結構傷つけること思っちまったっつーか……」
「あー……私ヴィランっぽいでしょ」
「えっ、何で分かったん?!」

仰天する上鳴くんに思った通りと笑えば、悪い!と謝られてしまった。分かりやすい彼の考えは、個性が出てから周囲の人たちに何度も言われてきた。それはそれはもう私の中で立派なコンプレックスになっていて。沢山の人達を救いたいって気持ちは勿論あるけど、それだけじゃなく今まで蔑んできた彼ら見返そうと邪に頑張ってもいたから、私の動力でもあったのだ。まぁだからといって気にしてないわけでも無いんだけど。

「初戦の爆豪と麗日ン時さー、正直めっちゃ怖かったんだよな。何かヤンキーとかチンピラみたいな怖さじゃなくて、なんつーかこう………理念があるみたいな。いやよく分かんねーけど!」
「あははは…確かにヴィランなりきろうっては考えてたかなぁ……私がヒーローだったらこんなヴィランやだ、怖いっていうの想像しながら」
「まじめっちゃ怖かった。ガチ、ヴィラン」
「…そう言われるとやっぱ私ヴィラン向きなのかなー」
「え、いやごめんって!つか、ちょっと俺で遊んでるっしょ?!」
「あはははは」

私の自虐に必死に謝る上鳴くんにいいよいいよと言いながら、少しだけもやっとしながら、胸の隅に追いやる。皆の前でこれ以上私の黒々とした狂気を感じさせたくなかった。

皆と別れてから、家に着くと猫が出迎えてくれた。いつもなら制服に毛がつく前に着替えるのだが、いたたまれない気持ちになって思わず抱きかかえる。猫は少しだけ暴れたが、諦めたのかされるがままになった。
私はきっと考え方もヴィラン寄りというか、どうすれば相手が傷つくのか考えられるタイプの狡い人間だ。だからこそ爆豪くんとお茶子に対しあんな、サイコパスみたいな作戦も思いつく。いや、もう私はサイコパスなのかもしれない。目指してるのはヒーローなのにな。それに加えてそのずる賢さを相手に気取られないよう隠すことも敢えてわざと外に出すこともできて、あぁもう、嫌な性格。
「こんなんでヒーローなれるのかな」
猫の目を見ながら情けない声を出す。その言葉に猫は何も応えず腕の中から逃げていった


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