俺の咄嗟の嘘に納得したように、確かにそうですよね……と落ち込む赤黒名前。そうだよ。お前は建前上は初日授業を抜け出し、他の生徒の時間を自身の捜索に当てさせたから補習となった。建前上はな。大人は勝手だな、とこいつが転校してきた日も頭に浮かんだ言葉が再び生まれた。

「はぁ…まさかここまで尾を引くとは」
「それくらい有限な時間を無駄にしたんだと思って反省しろ」
「……もし、次またサボったらどうなりますか」
「除籍に決まってるだろ。早く帰れ」
「あー、でも校長先生に書類出さないといけなくて」
「……振込か」
「はい。旅行用具とか一切無いので、ちょっと心許なくて」
「校長ならそのへんにいんだろ。探してみろ」

お時間ありがとうございました、と律儀に頭を下げる名前。初日に比べ、大分緊張は解れてきたのか俺に対しても少しだけ砕けた声色を出すことが増えた。それにしても礼儀はしっかりしているし、相手を見ながら行動するのが上手いのだろう。誰かも言っていたが、狡いやつだな。
それから少しだけ話をして、名前が教室を出ていく。最後まで俺の嘘は気付かれなかったらしい。
コポコポとコーヒーをカップに注ぎ、立ち上がる湯気にふぅと息を吐く。香ばしい匂いが鼻孔を擽るが、まだ飲めそうにない。

「やぁ!相澤くん」
「校長……あ、さっき赤黒名前が探してましたよ」
「ああ、今さっき会って書類を渡したよ。急な出費は大変だね」
「まぁ本人行けないと思ってましたからね」
「……本当に連れて行くのかい?」
「当たり前です。奴も1-Aの生徒だ」
「ヴィラン連合がもし場所を突き止めていたら……その為に虚偽の理由で彼女を先生が常に側にいられるよう補習の形をとったんだものね。すまない、時間をとらせたね」
「心配ですか、あいつが」
「そりゃあ全校生徒皆を心配しているし信用しているさ!それでも、あの憔悴しきって人を疑う事しか出来なかった彼女を見てきたからね。今の彼女のまま元気でいてほしいと思ってしまうのさ」
「はぁ……」

そういう理由で入れ込んでいるのか。会議で名前の処遇をどうするか話し合われた際も、合宿に連れて行くことに対し少しだけではあるが躊躇を見せていた。それでも公私を混同させる人ではないから、それが最善だねと許可していたが

「失礼します!校長先生いらっしゃいますか?」
「僕はここだよ!書いてきたのかな」
「はい、ほんとに急で申し訳ありません」
「いいよいいよ。ショッピングモールに行くんだろう?楽しんでおいで」
「はい!」

笑みを浮かべる二人は仲の良い親子のようだった。
まぁ頼れる人がいるということはヒーローにおいても大切だ。守りたい人がいるということも。
いつの間にか温くなってしまったコーヒー。口に含めば苦味が口いっぱいに広がった。




        main   

ALICE+