合宿が間近に迫る中、参加できる1-Aメンバーで大型ショッピングセンターに買い物に行くことになった。前回も話した通り、名前は初めて見る広さの建物と皆で遠出したことに胸を弾ませており、いつもよりも気分が高揚していた。それに、以前あった雄英体育祭の名残が未だにあって、みんな声をかけられていた。録画やリアルタイムで体育祭を見ていた時の自分は、今こんな形で雄英に通えているとは思わないだろう。照れ笑いを浮かべる皆を見ながら、色々あったけど通えてよかったと幸せな気持ちになった。
それから、時間を決めてそれまで各々買い物をするという形に落ち着いたのだが
「名前は何買うのー？」
「えーっと、鞄とか圧縮袋とか……響香にリストアップしてもらったんだけど、結構な数なんだよね」
スマホで三奈にこれくらい、とメモを見せる。結構精査したつもりでも元がゼロのためやはり数は多くなってしまった。
「おっ、じゃあ一緒に見に行こ！新しく買うもの見つかるかもだし！」
「ほんと？！正直凄い助かる…三奈は何買うの？」
「私はねー……」
これまた上機嫌の三奈と話をしながら色んなお店を巡っていく。服や携帯用の化粧水、シューズ等々……思っていた以上に買うものがある。大荷物を帰りの電車でも持つことは厳しい。出費にはなってしまうが自宅に郵送してもらうことにしよう。
するといきなりサイレンが聞こえ始め、周りがざわつく。
「どうしたんだろ…？」
「ヴィランかな…ひったくりとか？」
「にしては、サイレンの数多いし……」
何事かとキョロキョロしている内に、訳も分からず逃げ出す人もおり、気付けば三奈と逸れてしまっていた。すぐさま携帯に連絡が入り、なんと緑谷くんに件のヴィラン連合が接触してきたという。皆も集まっているとのことで、私も指定された場所に向かおうとした。
初めてだった。ヒヤリとした寒気。気が付けば後ろから冷たくてカサついた何かが這うように首に巻き付いた。
「やぁ赤黒名前」
「……えっ？」
突然のことに頭が真っ白になる。恐怖から膝が大げさなくらいにがくがくと笑う。それでも、必死に頭を働かせる。首には知らない男の手。ぐるりと覆うように置かれた腕。指はわざとなのか4本かけられていた。何、が。だめだ、体も頭も動かない。
けどただひとつ
この知らないはずの男は私のフルネームを発した。地元から離れたここに、私の名前を知っているのは雄英に関わる人だけ……その多くが正義の心を持った人達だ。出会い頭に喉を掴むようなことはしないだろう…それに、緑谷くんがヴィラン連合に接触された…奴らはステイン、との関わりがある……ということは
「ヴィ、ラン連合……」
「おお優秀だな。けど遅い。もうお前の命は俺の指一本で決まるぜ？」
ぐっ、とかかった指に力が入る。確かみんなの話では手が触れただけで相手を崩す個性のやつがいて、こいつか！と結び着いた。フードのせいで顔の上半分は見えないが、不気味な顔をしていると思った。
呼吸が恐怖で浅くなるのを隠しながら、周囲を見渡す。幸い騒ぎに注目してこちらに気付く人はいない。端から見れば、彼女の首に手を回す彼氏のようにも見えるだろう。良かった、こいつは私にしか興味がない。
「……緑谷君にも、会ったみたいだけど……私に、何のよう」
「おいおい、無視かよ。まぁいい…これは宣誓だ」
「せんせい…？」
頭が回らないせいか、たった4文字の言葉すらうまく変換できない。また呼吸が浅くなる。はっ、はっ、と息が漏れる。怖い。怖い。嫌だ、死にたくない、こんな奴らと皆は戦ったの？やだ、三奈、響香、梅雨ちゃん、透、お茶子…
皆の顔を思い浮かべてはまだ死ねないとギュッと口を結ぶ。恐怖を外に出してはダメだ。隠せ。
「宣誓だよ、体育祭の時にもあったろ？選手宣誓の『宣誓』」
「なんの」
「お前をヴィラン連合に引き入れる」
「っは、？」
突然の言葉にまた思考が止まる。訳がわからない。混乱は更に加速する。私をヴィラン連合に？何を言ってるんだ。
「ステインの妹。これがいるだけで寄って来る奴らはいる。崇拝してるからなァ」
「そんな……短絡的に集まると、思う？」
「血族というのは他者へのアピールとして効果的だ。歴史でもやるだろ？王様の子供にはみーんな従う。シンボルは2つでもいい。それもお前の個性はステインと似ている」
「それだけで、？」
「忘れていないだろう、お前はヒーロー殺しの妹。片鱗は必ず持ってる。それに、この間の戦闘訓練の冷酷さ。お前はヒーローじゃない。こちら側だ」
「…な、んで知ってんのよ」
「さァ、なんでだろうな。また来るよ、今度は一緒に"帰ろうな"？」
そう言うと首筋にトンっと衝撃が走る。男はニヤりと口元を歪めどこかへ歩き出す。待てと伸ばした手は空を切る。あぁ、くそ。何もできない。崩れ落ちる体を支えることもできず、私は意識を手放した。
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