あの日、僕が死柄木弔に解放されたあと、名前さんも奴に遭遇、というか接触されたらしい。その際に攻撃されたのか、彼女は救急車で搬送されていた。気を失っていたところを周囲の人が保護したらしい。首筋には手の跡があり、警察が、僕と同じ人物に接触されたと判断するのは容易だっただろう。
けど、その日モールに来ていた皆は大体僕のところに集まっていて、名前さんと一緒にいた芦戸さんもいつのまにか逸れていたという。だから、奴と彼女の間に何があったのか知っているのは名前さん本人だけ。警察の人とか相澤先生が事情を聞こうとしたところ、何かを呟いたあと意識を失ったという。
それから目を覚ました彼女は「白い髪の男に接触された。けど何か言われたか覚えていない」とだけ述べ、それ以上は語らなかったと聞いた。

学校では、合宿先の変更が告げられた。その日、飯田くんは皆よりも少しだけ、落ち着きがなかったなと思う。そわそわともまた違う、時々何かを思い出したみたいな顔をして、少しだけ悲しそうな顔をする。きっと、彼女のことを思い出してるんだろうと邪推した。


そして、合宿当日。バスに乗り込むタイミングで、名前さんはショッピングモールの日ぶりにみんなの前に姿を現した。その時の彼女は少しだけ、違う人に見えた。

「名前!無事なの?!ごめんね!!」
「ううん、ごめんね心配かけて……なんか久しぶりな感じするね」
「名前ちゃん!怪我は?!」
「わーお茶子〜!あはは。大丈夫だよ〜。何ともないのに先生とかが大袈裟で病院から出れなくて…」
「……名前、ほんとに大丈夫?」
「うん、ありがと。ごめんね」

芦戸さんや麗日さんたちと親しげに話す彼女に違和感を覚える。きっとそれは彼女たちも一緒で。再び体調を気遣う芦戸さんに彼女はあくまで"普通に"微笑んだ。
僕は、名前さんの事は、正直あまり知らないけど、少し前までの彼女は悪戯っぽく笑う。拗ねやすい。頭がいい。強いけど、長期戦に持ち込まれると苦しそうになる。少し、狡い。ただの普通の女の子だったのに。
転校してきたあの日みたいになってしまった彼女。どこか消えそうで、いなくなりそうな、あの感じ。
死柄木弔と何があったのか分からないけど、確実に僕たちと名前さんの間に見えない溝みたいな、透明な壁みたいな、隔たりができてしまった。
すごろくでいえば、ふりだしに戻る。まさにそんな日だった。


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