今回だけというプッシーキャッツの作るご飯を噛み締めながら、明日からの訓練を想像する。私達は補習もあるし、結構身体的にも精神的にもギリギリになりそうだなとご飯を食べる手が止まった。ご飯が喉を通らない理由は他にもあるけれど。

「名前、食わねーの?」
「何か食欲なくて……切島くんはたくさん食べてるね」
「体力勝負だからな!名前も食べねぇと持たないって!」
「私たちは補習もあるしね…」
「お前それを言うなよ……」

あははと笑えば、切島くんは更にご飯をかき込んだ。先程相澤先生から私たちに補習授業が言い渡されていた。皆よりも多い訓練時間、皆より少ない睡眠時間で。あんなに行きたかった(途中で辞退を申し出ていたものの)合宿なのに。少しだけ、気が重い。相澤先生からは立ち回りの悪さを噛み締めろとのお言葉。それもまた、ずしりと重かった。

そして朝から個性を伸ばす訓練が始まる。皆それぞれが大変というか…切島くんは尾白くんに殴られまくってるし、上鳴くんはアホになってたりする。百は甘い物をずっと食べながら、クオリティの高い物を創造できるような訓練らしい。最初は大丈夫だろうけど、ずっと甘いもの食べ続けるの大変そうだ……時折うっと嗚咽く百に頑張れ…と思いを送る。
そして、私は自身に対する個性の持続力の強化が課題とされた。緑谷くんと虎さんと一緒に只管筋トレである。この間はブラド先生とひたすら組手だったし、体術的なトレーニングが必要なんだろう。うぅ、しんどい。びきびきと音を立てるように体中が痛い。
これが続くかと思うと、気が遠くなるようだった。



「えっ!肝試しないの?!」
「そう!泣きたいね!」

訓練を続けて数日目のことだった。あんなに楽しみだったのに、と涙を浮かべながら笑う三奈。悲しすぎて泣けるを通り越して、笑えてきたらしい。補習組は辛いねと肩を抱きあえば、肝試したかった〜!と声を上げた。そう。夜は肝試しがあると知らされていたのだが、先程相澤先生から補習組は無いと伝えられたとのことで。一夏の思い出らしい思い出も味わえないとは………

「皆、楽しんできてね……緑谷くん、感想教えてね……」
「う、うん……」

じゃあと名残惜しげに手を振れば、相澤先生にずるずると引きづられる様に勉強部屋へ連れて行かれた。鞭ではなくアメをくださいと皆で先生に懇願する。部屋の中には既に物間くん。相変わらず煽ってくるなんて、メンタル強いなぁ。
変に感心しながら7人で相澤先生の講義を受けてようとすると、マンダレイのテレパスが入る。

それは緊迫した声で、ヴィランの襲来を告げるものだった。一瞬で部屋に緊張が走る。交戦は避けるよう言われ、先生達からも部屋にいるよう命じられる。突然の事態に体は固まったようだった。
そして頭に浮かぶ嫌な予感。もしこれが、あいつらの仕業だったら。寒くもないのに腕を擦る。自分で思っているよりも、私は恐怖しているようだった。それを見たのか上鳴くんが少しだけ近くに寄ってくれた。ちょっと怖いね、と笑えば無理すんなと頭を撫でるように触れた。その声色と仕草に安心感を覚えれば、勝手に息が漏れた。息を吐くのも少しだけ忘れていたのだなとその時に気がついた。

そして交信を全て聞いた相澤先生が外に出た瞬間、黒い炎が彼を襲った。
ひゅっと息を飲むが、音を立てまいと口を手で塞ぐ。
顔が継ぎ接ぎの黒髪の男が窓から見え、恐る恐る顔を覗かせた。ゆっくりとその男はこちらに気付いたように顔を動かす。


"いた"


黒髪の男は私の目を捉えながら、歪な口元を引き上げた。


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