「名前何か、顔色悪くね?具合悪い?」
「具合悪いというか、感情がせめぎあっている。けどすこぶる元気」
「お、おぅ……よく分かんねぇけど、がんばれ?」
「うん。がんばる」

ロビーで項垂れていると通りかかった上鳴が心配してくれる。
ひらひらと上鳴に手を振りながら、今日何度目かのため息をついた。


心操くんに八つ当たりをしてから3日。あの日から私の頭の中は苛立ちが後悔へと移り変わっていた。最初こそ、うるさいとか死んじゃえなんて酷いことを思っていたのだけれど。うん、思い返せばなかなか理不尽な怒りだったなぁ。一応、絡まれてるとこ助けてくれたんだし。もう少し話し合えば良かったのかなぁ。けど、私の最高機密を他人に漏らすのは気が引けたし。
私のお得意のぐるぐる考える性格はいつまでたっても進展していない。そうして、3日たったわけで。
ちなみにステインの動きについては未だ飯田くんたちには聞けていない。エクトプラズム先生も諦めているのか、他の方法を模索し始めてる。出来の悪い生徒で、ごめんなさい。もうちょっとだけ、待ってください。罪悪感を呑み込んで曖昧に笑って今日がまた終わった。

項垂れてたら元気出してくださいと百が淹れてくれた紅茶はすっかり冷めてしまった。大好きな紅茶も何となく受け付けないのは、喉の奥にずっと悩みが引っかかってるから。

だって、変わるのは怖い。

変わればその分だけ傷つくし、苦しいのは嫌だし、避けたい。けどそれは成長のきっかけを捨てている事に繋がる。そしてまたチャンスを逃したことに対して後悔して、ぐるぐるぐるぐる。悪循環。

もやもや考えたまま、朝を迎えてしまった。いつもより随分早く、1人で学校に向かうと渦中の人物が下駄箱の前で待っていた。その雰囲気から、待ち人は私のようだ。


「えっと…おはよう」
「話がしたいんだけど」
「……分かった」
「校内適当に歩くのでもいいか」
「うん」


短く受け答えしながら、室内用の靴を履く。何でも無い風を装って、行こうかと声をかけた。
少し見上げるくらいの背の高さ。なのに歩く歩幅は同じくらいで、合わせてくれているんだなと思わぬ優しさに拍子抜けした。


暫く無言で歩きながら、痺れを切らしたのは私だった。


「……この間は、ごめん。イライラして言い過ぎた」
「いや、俺こそ突っかかったし。悪い」
「いやいや……」


誰もいない廊下に気を遣う声だけが響く。ふと見上げた紫色の髪の毛は朝日に揺れてきらきらしていた。なんだかその綺麗さにどきりとして、少しだけ目を伏せた。

なんで、彼はヒーローを目指したんだろう。

この間の感情の吐露は苦しいくらいに澄んでいた。知りたい。彼のこと。何か私に繋げたい。彼の答えを自分の答えにするわけじゃないけど、どうしても聞かなきゃいけないと思った。




        main   

ALICE+