あれから数日。必殺技、というほどの物ではないけれど。何とか形になった頃、相澤先生がTDLで訓練を重ねる私たちに集合をかけた。今までの成長確認のための実技訓練を行う、と。





「どわっ!!」
「と、轟くん飯田くんも!今は逃げよう!!」
「あ、あぁ!!」
「クソ、なんであの2人がペアなんだよ!」

そう叫ぶのも束の間、A組の生徒にとってはお馴染み爆発が再び背後で起こる。爆炎の向こう側からは、これ以上ない程笑みを浮かべる爆豪と、冷や汗を浮かべる名前が見えた。

現在、A組が行っているのは全員参加のデスマッチ。勿論殺し合いではなく、相手チームを拘束すれば勝利だ。そして、運の悪いことにトップクラスの実力者である爆豪と、その力を個性的にも作戦的にも底上げできる名前がペアになってしまう。それからはもう、時間の問題だった。
残るは轟、緑谷、飯田、障子の4人。完全勝利はそこまで来ていた。

しかし、実は名前は爆豪の個性を強化していない。ただ、事前情報によりヤバイ爆豪×パワーアップ=無敵、のような構図を勝手に想像されているだけなのだ。何故彼女が彼の力を底上げしていないのか。それは、考えてみれば自然の事だった。


『俺は俺の力だけで勝つんだよ。サポートなんかいらねェ』


開始早々にそう言い切られてしまえば、名前としてはどうしようもなかった。そもそも血液や汗などの体液すら提供してくれないのである。勝手に操ることも出来ず、その上、勘違いした周囲が勝手に逃げ惑い自滅してるだけなのだ。勝負の行方は情報量によるとは言うが、それが確かなものか確認することも大事だとぼんやり考えた。

しばらく歩くと共闘したのか、残る4人と対峙する形になる。障子はこちらの会話を収集する役なのだろう、複製腕には耳が成っているのが見えた。

「ハッ!雑魚が仲良く手ェ組んだってか。ムカツクなぁ、デク!!」

爆豪はこの状況に燃えているようで、こちらには一切見向きもしない。

しかし何もしないというのもどうかと名前は思案する。一応実技なわけだし、そもそも成長確認のための、と始まった訓練だ。今のところ私は何もしていない。それで減点されてしまうのも嫌だ。何かしらの形で戦いたいのだ。その生い立ちからか承認欲求が人並みよりも強い彼女は意を決して爆豪に近寄り、恐る恐る話しかけた。


「爆豪、私も…」
「寄るな話すな関わんじゃねーよカス」
「ペアって意味理解してるの?!」
「五月蝿ぇ死ね。テメーがいなくても勝てんだよ」
「……あ、そう」


もう一度言うが、彼女は誰かに認めてもらいたいという欲求が強い。その彼女を蔑ろにした爆豪は事の重大さに気が付いていなかった。かちん、と頭に来るとはよく表現したもので。正にそうなった彼女は、徐に耳の小型無線機に手を伸ばし、向こう側にいる相澤に声を届けた。その様子も気に掛けもしない爆豪は意識が別に向いており反応が遅れる。しかし、対峙している4人はその異変に敏感に反応していた。

「先生」
『…何だ』
「ーーーってアリですか」
『…それはペアで話し合うことであって、俺が決めることじゃない』
「ふふ、有難うございます。では」
『おい、ちゃんとっ…』

相澤が何かを言いかけたのは気付いていたがきっと自分にとって良い話ではない。ブツン、と乱暴に通信を切ると背を向けた爆豪に、慣れた手つきで刃物を近づけた。その殺気に気付かない爆豪でもなく。


「ッテメー!何しやがる!?」
「相澤先生にも確認済み」
「ア゛ァ?!」
「"仲間割れ"もアリだってさ」


そう云うや否や、細かな刃物を躊躇いもなく無数に投げつけた。


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