名前の動きは無駄がなく、計算され尽くしたものだ。爆豪の爆破のタイミングや癖などを把握しているのか。

「爆豪の攻撃ってさぁ」
「んだよ、ブス!」
「掌の汗腺から〜って言ってたでしょ?だから、掌の向きと関節の角度に注意すればある程度予測は、できる」
「っさせ、るかぁッ!!」
「おっ、と……それに腕の可動域。身体は柔らかいけどっ、背後に回られると爆破できなくも無いけど、精度は落ちる。視確認できないもんね。っ、流石に速いけどさっ」

そう言いながら爆破をタイミング避けていく名前。爆炎を裂くように現れる暗器にも爆豪は手こずってしまう。ただでさえ敵の4人と味方だった名前に挟まれ、途端に窮地に立たされる爆豪。怒りのボルテージは限界寸前だった。

「これじゃあ課題クリアになんねぇだろ馬鹿か!ルール分かってんのかクズ野郎!」
「ルール以前に協力すらできない味方なら、敵になっても当然でしょ」

ぎゃあぎゃあと喚く爆豪と冷静に見える名前に、一番訳がわからないとクエスチョンを浮かべていたのは当たり前にも残された4人だった。

「何してるんだ、アイツら」
「仲間割れみたいだな。相澤先生にも許可とったとか何とか聞こえた」
「普通に喧嘩してるね…」
「作戦なのか…?」

あまりの異常事態に、身構える障子。しかし、彼の目に見える名前は何かを企んでいるというよりも。

「あれは…完全に怒っているな」
「衝動的に喧嘩するような奴か…?」
「確かに…名前さんって出会いもそうだけど、衝動性は高いかも……それに、何かの役に立ちたいとか認めてもらいたいとかでモチベーションを保っているから、そこを邪険にされて」
「キレたのか。子供かよ」
「名前君…そんな幼稚な人だろうか……」

飯田は彼女はそんな人だったろうかと首をひねる。暫く様子を観察するか決めかねていると、2人の決着が着いたようだ。当然…といえばいいのか。膂力を上げている名前に翻弄され、爆豪は血液を摂取されてしまう。そのまま爆発が小さなパチパチとしたものへと弱まった。

「クソ女があアアァッッ!!」
「あっはははは!!!あ、これも忘れちゃだめだよね!」
「おいっ!それ敵用の確保テープじゃねぇかヤメろや!!!」
「うるさいっ!あんたは、敵!敵は捕獲!」

そう言って、ぐるぐると確保テープを爆豪に巻き付けていく。その様子を見ながら4人は呆れ返っていた。こんな終わり方あるだろうか、と。当の本人は爆豪の頭をポンポンと叩いたり、関係ない頭にまで確保テープをベリベリ貼っては蔑んでいた。

「…めちゃめちゃ幼稚じゃねーか」
「な、何にせよ!この好機を逃してはならない!!」
「ああ、飯田くーん。この馬鹿あげるよ。私も裏切ったし、あとは4人で対戦して」
「はっ?」

いざ、名前を倒そうと臨戦態勢になる飯田。しかしそれに気付いた名前はあろうことか、味方であった爆豪をゴロゴロと蹴飛ばし、4人に差し出したのである。ミイラ男のように確保テープで巻かれた爆豪は何もできず、塞がれた口で声にならない叫びを上げるばかりである。名前は警戒心を刺激しないようになんて言って、少し距離を置いたところに。

「あ、けど一応そっちのテープにしといた方良いかも。点数的に?」
「あ、あぁ。じゃあ……」
「爆豪くんをまず僕達のテープも……っ、?」
「どうした緑谷くん」
「いや、かっちゃんの頭が何か……糸?」

地面に転がる爆豪を起こし、髪に付いた泥をパッと払ってやる。するとツンツンとした髪と確保テープに紛れて、何かの糸が巻き付いていた。これ、は。

「っ、皆離れて!!」
「わ、緑谷くん気付くの早いよ」
「うわぁ!!」

爆豪を取り囲むように立っていた4人。その中でもいち早く緑谷は名前の意図に気がついた。しかしながら緑谷も僅かに油断していた。相手が、あの狡賢い名前だということを。

彼女は馬鹿にしたように爆豪を拘束し、頭を叩きながら罠を仕込んでいたのだ。爆豪の硬い髪の毛に紛れた糸の先はテープの下の針を隠していた。そして、敢えて床に転がしたことで汚し彼らの同情心を揺さぶったのだろう。思わず近付き、抱き起こすように。その時にはもう遅い。後は先日の訓練でも見せていたように、糸を巧みに引き、その先の針で彼らの血液や汗を採取すれば良いだけだった。
気付いた時にはもう遅い。針は彼女の手元に戻り、ぺろりと出された真っ赤な舌が自分たちを嘲笑っているようだった。
抵抗するも虚しく何なく確保されてしまった4人。全員が悔しさと情けなさと、あと少しの恨みを彼女に抱いた。

『はい、終了。爆豪、名前ペアの勝利』
「あー…やられた」
「名前さん…いつからこの作戦考えついたの…?」
「んー、4人が共闘した時かな。障子くんがこっちの声聞いてるの分かったから、逆手に取ろうかなと」
「そんな早くから……じゃあ相澤先生にも」
「うん。"仲間割れ"していいかじゃなくて、"囮にする"のはアリかを聞いたの。博打だったけど」

上手くいって良かったとケラケラ笑う名前と対照的に4人はげんなりする。ここまで綺麗に嵌められるとは。油断していた。

「ん?という事は、爆豪くんはその事を知って敢えて喧嘩したのか」
「いや、爆豪には何にも言ってないよ?ね、爆豪」
「ぐ、ぅうううっ!」
「そんなに怒らないでよ。ほら、敵を騙すならまず味方からなんて良く言うでしょ?」
「ん゛ん゛ん゛ーっ!」
「ふふ、じゃあ皆のとこ行こっか」


そう悪戯に笑う彼女。手には爆豪に繋がった確保テープが握られていた。味方であれば、何故解かないのか。
そんなこと、4人は分かりきっていた。

「…完全にムカついてやったな」
「僕もそう思う……こんな大掛かりな事しなくても、作戦は他にも立てれるし」
「爆豪くんを負かした上で、勝てる様な道筋を考えたのか…」
「怖ぇ女……」


ふんふんと鼻歌でも聞こえて来そうなほど嬉しそうな名前。その後ろで男子たちは静かに戦慄していた。



そして、ヒーローらしからぬ作戦で、私怨丸出しだと軽く相澤先生に怒られるのはまた別の話。






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