「相澤くん、彼女どうだった?」
「校長、見てたんスか」

赤黒名前の個性把握テストも終わり、次の授業の準備のために職員室に向かう途中、前方から歩いてきた校長が挨拶もそこそこに尋ねてきた。そういえば以前オールマイトとこんなやりとりをしたなと思いだした。

「結果自体は、まぁうちのクラスでは上位ですね。けどメンタルが弱すぎる。あれだとすぐに潰れますよ」
「多感な時期にデリケートな問題ができてしまったからね……君なら除籍にするかい?」
「いや、まだ様子見ですが、見込み無しと判断したらすぐにでも」
「そうかい…彼女は強い個性の持ち主だ。だが、できかかっていた器があの事件で砕けてしまった。いまの彼女はその器を無理矢理再構築した……急拵えでの不完全品」

彼女には立ち止まってる時間はないが、少しだけ猶予をあげてほしい

校長はそう続けるとどこかへと向かった。あの人も緑谷に過信しているオールマイトさんの様に名前に入れ込んでるように感じる。ふとスマホを取り出し、生徒それぞれの詳細が乗ったページの一番新しいページを改めて読み返した。

赤黒名前
個性:コントロール

注意事項の欄にはこれまでの経歴やカウンセリングの結果などが細かく書き込まれていた。
ヒーロー殺し『ステイン』の異母妹ではあるが、本人との接触は幼少期のみ。しかしながら個性はステインと似通った部分があり、本人の強いコンプレックスであると。
その為かあいつは自己紹介の際も自身の苗字は明かさず、切島に個性の説明をした時も大部分を省いていた。まるで自分はただの増強型とも言わんばかりに。この時期のガキにとっては大きな問題だろう。だがそれでも自分と向きあえないなら見込みは無い。ヒーローとは甘い職業では無いのだから。
そういえばと思いだす。数日前に校長が自ら赴いてあいつを迎えに行ったと聞いた時は少しばかり驚いた。それほどまでの力の持ち主か危険ということかと思ったが、違う。それよりもステインの事件後、ヤツの思想に感化され神と崇めるかのようなヴィランが増大した。そいつらに神と同等の力を持つ名前が狙われでもしたら、そして崇拝派の思想に染まり、ヴィラン側の組織の象徴として擁立されてしまえば世間に甚大な影響を与えるだろう。政府はそれを危惧し、早々に保護対象として国立の雄英に編入させたのだ。

「大人は勝手だな」

自分のことはさておき、はっと呆れたような声を出す。そのまま歩を進めるとばたばたと走る音が廊下に鳴り響いた。振り返るとクラスの数名が息を切らしながら駆け寄ってきており、目の前まで来ると先頭にいた麗日が口を開く。

「相澤先生!」
「おい、廊下は走るな」
「へっ?あっ、す、すみません。けど、あの名前ちゃんが!」

動揺と焦りをにじませた顔で声を荒らげる。話を聞くとあの後突然、クラス全員に傷をつけ個性を弱らせたという。そして自分はステインの妹であると告げ、謝ったかと思うとどこかへ行ってしまったと。

「追いかけなかったのか」
「けろ……みんな彼女の迫力と告白に気圧されてしまったの…いま探しているけど障子ちゃんの個性もうまく使えなくて」
「ったく、うちのクラスは問題児だらけだな。その内個性は元に戻るだろうから捜索を続けろ。俺は他を探す」
「はい!」

そう返事をするとそれぞれが四方に別れ走っていった。廊下は走るなと言ったばかりなんだがな。仕方ない。まずは監視カメラでも見に行くかと職員室に改めて向かう。
それにしても名前がこんなにも早く暴露するとは計算外だった。もう少し引き伸ばすかと思っていたが、想像していたよりもギリギリだったのかもしれない。思わぬトラブルに溜息が溢れるが、これも教師かと頭を掻く。ちらと見た空は今にも雨が降り出しそうだった。



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