「はーいそれではぁ、【ゆきに避けられるとか傑お前何やってんだよ馬鹿じゃねーの?会議】を始めまぁーす」
「返す言葉もないよ・・・・・・」
深夜0時。
悟の部屋に集まった、さしすトリオ。(ゆきは歌姫との任務で不在。)
深夜にこうして緊急会議が始まったのは、誰が見てもわかるほど、それまで普通に接していたゆきが傑を避けていると、悟が不審に感じたことが発端である。
そして傑は傑で常に上の空。日常の会話ですら、「え?」とかなりの頻度で聞き返す酷さだ。
これをおかしいと思わないわけがない。
それで傑を問い質せば、好きになって以来スキンシップの度が過ぎたことで、不審がられていると言う。
「オマエ大好きだもんなー、ゆきの腰。しょっちゅう触ってるもんなー」
「腰だけに限らないよ。全部好きだ」
「全部好きとかクソ重」
冷めた表情で煙の輪をプカプカ作る硝子。それを「心外だ」とでも言いたげに一瞥する辺り、傑に自覚はない。
「・・・別に野郎の惚気なんてキョーミないけど、ゆきのどこが好きなの」
「それは私がゆきに相応しいか否か、父親による面接といったところかな?」
どこか突っかかるような態度で尋ねる親友の真意を探ろうと、傑はあえておどけてみせる。
悟は最初こそ印象は最悪だったが、今ではゆきと仲良しだ。ゆきは傑を避ける分、悟と過ごすことが増え、傑としてはまるで取られてしまったかのような子供じみた嫉妬心を感じている。
試したつもりの傑であったが、悟は面喰らったような顔を見せ、「そうか」と呟く。
「・・・そうだな。これは面接だ。大切な一人娘をロクな男にくれないための」
「で、どうなんだ?」と傑を見つめるその目は、しっかり見定めるべく光っていた。
悟とゆきは同じ年齢のはずなのに、父娘のような位置関係にあるのだと。
取られるも何も、己が恋慕う女性はとっくに彼の庇護下にあるのだと。
傑は悟った。
「私はゆきと、夫婦になりたい。ゆきが欲しい」
「ゆき!! ゆき!!」
恋慕う存在が、目の前で死にかけている。
その日の任務は特級呪霊3体を祓えという、2年生総動員のかなり重い内容だった。
激しい戦いの最中、傑と硝子を狙った攻撃にいち早く気づいたゆきが、二人を庇った。
その攻撃は《水面映し》で反射出来た。が、別の攻撃がゆきの背後を捉えたのだ。
彼女を襲った特級呪霊は傑が祓った。
硝子がゆきを治療する傍らで、別場所で戦っていた悟が戻り、ぴくりとも動かないゆきを見た瞬間、傑に掴みかかる。
「何してたんだよ・・・・・・なんで傑がいながらコイツが死にかけて、オマエはピンピンしてんだよ!」
「ッ・・・すまない・・・・・・」
「嫁を守れねーのに、旦那なんて務まるかよ・・・・・・」
悟は拳を震わせる。
「・・・・・・なんとか一命は取り留めたから、あとは高専に連れ帰って寝かせよう」
「!」
「死にかけてんのに、ゆきはしっかり自分の反転術式で応急治療やってた。それがなけりゃ、私でも手こずってたな」
硝子でも手こずるレベルの攻撃をゆきは喰らった。
わかってて、彼女は飛び出したのだ。
数日ぶりにゆきが目を覚ますと、体を拭うため病室に来た夏也乃は洗面器や手拭いをほっぽり出して、大好きな先輩に真っ先に抱きついた。
「ゆきちゃ・・・ッ・・・!」
泣きはらしながら力強く抱き締める後輩を、ゆきは優しく抱き締め返し、あやすようにその背中をぽんぽんとゆっくり叩く。
「ッ・・・!」
入口の方で息を呑む音がしたと思ったら、勢い良く両肩を掴まれた。
「ゆき!」
「す、傑くっ・・・」
「なぜあんな無茶をしたんだ! キミはあの時、悟への連絡を頼まれていたはずだ! 私と硝子のことより自分の仕事を優先していれば・・・・・・そうしていれば・・・・・・!」
・・・夏也乃は、この男がこれほど真剣に叱っている姿を初めて目の当たりにした。
「キミが目の前で死にかけて、私は生きた心地がしなかった」
「ごめんなさい・・・・・・」
「ゆきのことは私が守る。だから、二度とあんな真似はしないでくれ」
「ッ・・・うん、わかった・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
傑にしがみつき、「ごめんなさい」を繰り返しながら泣きじゃくるゆき。
それからすぐして悟と硝子も駆けつけ、二人から「馬鹿」「あんな守り方すんな」「馬鹿ゆき」と怒られ泣かれ、ゆきは改めて、自分が仲間に大切にされていることを実感した。
この日から数日後、傑とゆきは晴れて恋人同士となった。
照れる彼女をニコニコと幸せそうに眺める親友を前に悟が誇らしげにする隣で、歌姫が渋い顔をしていたとかしていなかったとか。